
同行したのはセーリング、モーターボート、ダイビング関係のライターやカヤックショップ、ハーバー、旅行会社のスタッフ、つり関係のタレント等、総勢10人。賑やかなツアーとなりました。
筆者のセーリング活動ベースは主に相模湾です。よって、以下のレポートは関東水域のセーラーの視点からのご報告といった趣になることをご了承ください。
■東京から2時間強で富山駅着
さて、初冬の日本海、季節風が吹き荒れ、演歌の世界が広がっているそんなイメージを持ちながら富山県に向かいました。
富山までの交通ですが、2015年3月に長野から金沢駅まで延伸された北陸新幹線で向かいます。東京駅から「かがやき」(新幹線の愛称)を使い、最速2時間8分で富山駅着。大阪からなら3時間4分、名古屋から2時間54分と各地からもさほど遠くはありません。
ちなみに富山空港から富山駅までもバスで約25分とアクセス抜群で、東京まで一日4往復の便があります。一行は駅から中型の貸し切りバスでの移動となりました。
まず訪れたのは「新湊きっときと市場」。三崎の「うらり」にレストランが併設されたようなところです。地元富山湾、朝どれの「きっときと」(新鮮の意味)な海産物で溢れています。特筆すべきは水揚げされた競りが早朝と13時頃の日に2回開催され、見学できること。この時期、市場はズワイガニが一面、赤い絨毯のように敷き詰められた光景になるそうです。
富山県では日本海で海運していた北前船を「倍倍」に儲かることから「バイ船」と呼んでいたそうです。廻船問屋旧森家住宅(国重要文化財)や魚津港には江戸時代後期に建造された最初の灯台「万灯台」も残されており、バイ船で栄えていた頃の面影を残しています。
また、「世界で最も美しいスター〇〇〇〇」と呼ばれる某コーヒーチェーンの店舗がある「富岩運河環水公園」は、海運のために掘削された運河の名残り。接続している富岩(ふがん)運河中流にある中島閘門(なかじまこうもん・パナマ運河方式)は、運河の水位差約2.5mを調整するために現在も運用しており、国の重要文化財に指定されています。富山と言えば山のイメージが強いですが、海との関わりも古くからありました。
富山湾は富山県・石川県に面しており、特徴は山が近く川の栄養豊富な水が流れ込み、南の暖かい海から塩分濃度の濃い海水が対馬海流によってもたらされる豊かな海であり、湾の中心部は水深1,000メートル以上のドン深で干満の差が少ない。日本海に生息するとされる約800種の魚類のうち約500種が富山湾には生息しているそうで、天然のイケスとも呼ばれています。冬でも北西からの季節風が能登半島で遮られ、比較的穏やかだそうです。
富山湾は奥深いイメージがありましたが、チャートで測ってみると能登半島の先端まで約50マイル、伊豆半島のそれとさほど変わりません。日本一周をしている艇は富山湾をスキップしてしまうことも多いと聞きますが、下田くらいまでの距離を考えれば十分に立ち寄よれる泊地として考えられます。
■整備が進む新湊マリーナ
日本海側最大規模の新湊マリーナ(海竜マリンパーク)は2000年の富山国体時に競技会場として整備され、現在も拡張工事中。現況でも泊地としては十分な環境ですが、桟橋(櫛型ポンツーン)の増設、陸上ヤードの拡張、クラブハウスの改修がすでに終わり、50トンクレーンの新設、陸上ヤードのさらなる拡張、クラブハウスの増設等が進んでいます。
泊地を見渡すとセーリングボートは少なく、小型のモーターボートで釣を楽しむ方が多いようです。魚種が多く、すぐに水深が深くなるので、魚場(ポイント)が近く移動時間が短いのも特徴でしょうか。タモリカップ富山大会もレース海面の水深がすぐに深くなるため、レース運営には苦労されているそうです。
これだけの施設が充実した新湊マリーナですが、艇置き料が格安です。
富山県の施設なので富山県在住者との費用の格差(1.5倍)があるとはいえ、関東水域のハーバーと比べると1/4~1/5程度ではないでしょうか。
日本一周等をする際に冬期間は艇を預け、暖かくなってから航海続けることも方法かと思います。注意点としては、定置網が多いことです。新湊マリーナ近くの定置網にはしっかりしたブイがついていますが、他の海域で見た定置網には何もついていないものばかりでした。
艇置き料の差額を考えると新幹線の往復約2.5万円でも相当の回数は往復はできる計算となります。沖縄に係留して週末に飛行機で移動し、セーリングを楽しんでいるセーラーもいるので、同様の使い方もあるのではないかと思われます。ただ残念なのは、富山駅からの新湊マリーナまでの公共交通機関(バス)の便が悪いことです。午前中は一時間に一本、午後は二時間に一本程度です。
■富山湾にはセーリングスポットが点在
午後からは富山県新湊マリーナ(海竜マリンパーク海の駅に登録)から富山湾での体験セーリングをしました。
乗せていただいたのはSHINKIROU-4(YAMAHA -33S)とLUANA(Dufour34)。当日は曇り空で風も弱く、海面も穏やかで体験セーリングにはちょうど良い日でした。途中、帆船海王丸が展示されている海王丸パークに着岸し(今回はご厚意により特別に着岸)、公園を散策しました。
商業ベースのチャーターヨットはないそうですが、事前に相談すればセーリングボートをチャーターすることも可能とのこと。そこでこんなプランは如何でしょうか。
東京を土曜日早朝に出発し、午前中に富山駅に到着、チャーターをお願いした方にピックアップをして頂きハーバーへ。富山湾内七尾湾へのクルージングへ(お隣の石川県です)。
七尾湾口まで20マイル程度。相模湾でいえば初島辺り。和倉温泉に宿泊し、夜は富山湾の海の幸を堪能し、翌朝出港。七尾湾内を散策して午後には帰港する。当日の海象が厳しければ、和倉温泉まではバスがあるので、そこは割り切って計画変更を。
この他にも、富山湾近傍にもちょっとしたクルージングスポットがいくつかあるそうです。詳しくは:富山県セーリング連盟事務局長:高野さんへお尋ね下さい。0766-86-5440(海竜マリンパーク内)
海竜マリンパークの隣には無料で使えるスロープがあります。トレーラーで艇を運んでランチング(艇を水に降ろす)する光景は海外ではときどき見かけますが、関東水域ではありませんね。
また、富山県内だけでも時計回りに石田フィッシャリーナ(無料の釣り桟橋がある)、経田マリーナ、海の駅蜃気楼、水橋フィッシャリーナ(海の駅に登録)、新湊マリーナ(海竜マリンパーク・海の駅に登録)鈴木マリーナ富山、雨晴マリーナと多くのマリーナがあります。
その他、マリンスポーツ関係でいえば、今流行のフライボードなども楽しめます。折角なので実際に体験してきましたが、見た目より体力的にハードで11月末の海は冷たくウエットスーツでは厳しかったです。まだ、設備が完璧に整っているわけではなく、浜辺で着替えて近くの公共トイレの水シャワーを使うこととなりますが、今後は整備されていくことでしょう。
日本海側でスキューバダイビングをと思う方もいるかと思います。富山市にあるダイビングショップでは24時間365日いつでも潜れるそうです(海象等によっては不可)。
しかし注意点があります。
スキューバダイビング後、飛行機に乗る際は12時間以上空けるというのはご存知だと思いますが、新幹線が通過する軽井沢付近は標高が1,000メートルに近いため、飛行機と同様、時間を空けなければなりません。ダイビングを計画する時にはご注意を。
■セーラーなら押さえておきたい富山湾
ツアーの最後に、富山県の担当者と意見交換会を持ちました。
前述したように富山は山のイメージが強いのですが、2014年10月に「世界で最も美しい湾クラブ」への加入をきっかけに、県としては3年ほど前からマリンレジャー関係の環境整備に注力しているそうです。(注:「世界で最も美しい湾クラブ」とは、優れた自然景観を保全し、湾周辺地域の観光振興や地域経済の発展との共存を図ることを活動理念としたクラブ。フランス・ヴァンヌ市に本部を置くNGO(非政府組織)。同クラブにはフランス・モンサンミッシェル湾、ベトナム・ハロン湾、アメリカ・サンフランシスコ湾、日本では松島湾、富山湾、駿河湾、宮津湾、伊根湾などが加盟)
ツアーの参加者からは、下記のような発言がありました。
「北陸新幹線では金沢への人の流れが多く、富山を素通りしてしまう」
「富山県を詳しく知らない(初めての富山訪問)」
「泊地も整備されていて良い環境である」
「漁港を開放していけばよいのではないか」
「ダイビングスポットとしては、水温の低い2~3月が良いが、受け入れのキャパシティーが少ない」
「駅からハーバーへの公共交通機関の便が悪い」
「タクシーが少ない」
「無料の釣り桟橋がある」。
等の様々な意見が出ました。
富山の観光、イベントをちょっと書き出してみましょう。
春:雪の壁で有名な立山黒部アルペンルート【雪の大谷】・ホタルイカ・蜃気楼
夏:各地のお祭り、そしてタモリカップ
秋:胡弓の音色で踊る【おわら風の盆】
冬:松葉、越前ガニと呼ばれているズワイガニ・ぶり・白エビ、スキー、スノーボード
等々色々あって書ききれません。そして、富山名物は、ます寿司、配置薬、海産物、日本酒、工芸品、かまぼこ(慶事には細工を施したかまぼこを送る習慣があるそうです)等々。
観光で困ったら、富山駅構内にある「とやま観光案内所」が便利です。親切丁寧に案内して頂けます。
いろいろな魅力のある富山県。セーラーなら七つの海を制覇とは行かなくても、せめて日本海でのセーリングは押さえておきたいですね。だってこんなに近くなんですから……(中里英一/JSAF広報委員会副委員長)