平成30年ジュニアユースセーリング・シーマンシップアカデミーの第6回室蘭アカデミーが開催されました。

■印象的なセイラー
温帯低気圧に変わったものの、北海道に進路を向けていたＷ台風の影響で室蘭沖の海面は大荒れの状況でした。そんな中、「コーチ、今から海にでますか？」「コーチ、昼から海にでますか？」としきりに聞いてくるジュニアセイラーがいました。
「いいよ、無理しなくて。コーチボートで見学してもいいよ」と答えるのですが、結局すべてのプログラムで海に出ました。

そのセイラーはプログラムが終了し「はーい、練習終わりー。着岸まで自由練習」と言うとすぐに海に飛び込んでしまいました。その後、艇に上がれないので地元のコーチに助けられて這い上がったのですが、すぐにバウに伏せるようにしてパドリングを始めます。

彼は、名探偵コナンばりのメガネに愛くるしい瞳。ミーティングでこちらが発する質問には大人顔負けの的確な答えを連発してくれます。「何で分かるの？」「うーん、何となく」。とても印象的なジュニアセイラーでした。

今回の室蘭アカデミーは、悪天候による公共交通機関の乱れもあり、ジュニアセイラー３人、ユースセイラー４人と受講生の数は少なかったのですが、それだけにマンツーマンに近い形でのアカデミーになりました。



■ユースのコーチング
初日の午後、台風の影響で到着が遅れていた蛭田香名子コーチが合流し、10ｍを超える強風の中で練習が始まりました。ところが、２時間ほどの練習の後、戻ってきた蛭田コーチから「普通にオーバーヒール沈をしてしまう」と深刻な表情で告げられました。受講生の中には昨年の愛媛国体に入賞した選手がいるにもかかわらずです。

実は、練習海面の室蘭港は法律上の国際拠点港湾および特定港であり、通常は８ｍ以上の風での練習が許されないらしく、受講生にとっては経験のない風域だったようです。

しかし、そこから蛭田コーチの真剣なコーチングが始まりました。
受講生と乗り代わり、オーバーヒール沈をさせないセイルトリムとボートハンドリングの見本を自ら示し、フリーではどのように波に乗せるか、セーリング中はどこを見て何を判断するかなどを海上でレクチャーし、さらに練習後の陸上ミーティングでも詳しくフィードバックをしていました。

その甲斐あって、少し風の落ちた２日目午後のレース練習では、すべての受講生が余裕すら感じさせるセーリングとレース展開を見せるまでに進歩していました。



■ジュニアのコーチング
前述のジュニアセイラーの他に、札幌から参加したＯＰに数回乗ったくらいの受講生がいました。２人は小学校４年生です。彼らは非常に我慢強く、風に立って止まっても、大量のアカを汲み出す作業に追われても、沈をしても、決して練習を投げ出しませんでした。その頑張りと上達ぶりから、２日目午後にはユースチームと同じく、ジュニアチームもレース練習をしてよいという判断に至りました。

もう一人のジュニアセイラーは中学校２年生。彼はすでに一定以上の技術を習得しており、小学生２人の良いお手本になってくれました。彼からは「マークを打ってほしい」という積極的な要望があり、私も彼の次のステップとしてコース選択について説明をしました。

コーチとして最も興味深かったのは、ＯＰの動画を見せた時でした。受講生のテンションが一気に高まるのが分かりました。練習の習得度合いが、ミーティングだけの時より高いと確信しました。



■最後に
昨年の室蘭アカデミーは、いくつかのイベントと合わせた大規模なものでしたが、今年は単独開催ということでした。しかし、実際は初日に子どもたちのヨットスクール、２日目は大人のヨットスクールが行われていました。短い北海道の夏ですが、関係者の努力を垣間見ました。

室蘭セーリング協会の皆様、受講生の保護者の皆様、室蘭市Ｂ＆Ｇ海洋センターの皆様には大変お世話になりました。
個人的には冒頭で紹介した奇想天外でユニークなジュニアセイラーと会って、もっともっと子どもたちの力を伸ばせるコーチングとシーマンシップの伝え方を学ばなければならないと考えさせられました。
本当に、ありがとうございました。（山本悟／ロサンゼルスオリンピック代表）