本アカデミーは来年度で節目の10年を迎えますが、私自身、この取り組みを通じて「シーマンシップ=人間力=競技力=セーリングの価値」であることを実感し、セーリングに出会えた幸運に感謝しています。
来年度も本事業とアカデミースタッフをよろしくお願いいたします。(JSAFジュニアユースアカデミー委員長・中村公俊)
福岡リポート/未知なるものへ備えろ!
2月10日~11、日本列島に強い寒気が入り込んだ建国記念日とその翌日、福岡アカデミー(福岡市立小戸ヨットハーバー)が行われました。
■果たして伝えることなどあるのか?
福岡県は、言わずと知れた高校のセーリングが日本一活発な水域です。
今回のアカデミーにはインターハイ常連高の中村三陽高校と福岡第一高校、昨年大活躍した西南学院高校、福岡水産高校、福岡高校の指導者と選手の総勢35人が参加しました。残念ながら、県内有数の進学校である修猷館高校と福岡高校の選手は模擬試験で参加できませんでしたが、指導者の方が情報収集のために参加されていました。
アカデミー担当者の北方貴紀さん(福岡県セーリング連盟、中村三陽高校顧問)から、年末年始に宮崎県日南市で九州高校会主催で宮崎アカデミーと420級の合同練習会を終えたばかりと聞きました。その際に福岡県からの参加者が少なかったという理由から、改めて地元でのアカデミーを申し込んだそうです。
1年を通して絶え間なく高校日本一を目指し、熱心に指導されている福岡県の指導者の方々と優秀な選手たちを前に、今まで以上の緊張を覚えました。
■未知なるものへの備え
競技レベルの高い水域において、シーマンシップをどのように伝えればセーリング競技の参考にしてもらえるかを考えました。
テキストでは、シーマンシップを「航海術にすぐれていること」と説明しています。おそらく、人類は水に浮かんだ時点から様々な自然の驚異に直面したことでしょう。その未知なる自然の驚異に対して「生きる」ための知恵が必要とされ、15世紀からヨーロッパで始まった大航海時代から、水平線の彼方にある未知の世界から生きて帰るための航海術が、シーマンシップとして今日に伝えられてきたものと想像しました。
それを現代のセーリング競技において、安全の確保はもちろんのこと、目指す目標を未知なるものと捉え、常に選手自らがその目標に到達するまでのセーリング技術を備えようと説明しました。
■例えば……
今回は、あいにくの天候で海上練習が初日の午前中だけになりました。
レース練習では、すでに高校トップレベルであろうある420チームが有利な下スタートを決め、スタート後ポートにタックして難なくフリートをリードしました。
午後のミーティングでは、このケースを元に、
①十分に他艇との間にルームがあったのでポートスタートができた(スターボでなくても良い。タックでスピードダウンさせなくて良い)
②アウトサイドリミットの向こうからポートアビームでくればフルスピードでスタートラインを切れた(艇を止めてからでなくとも良い)
③完全にオールフェアと確信できる位置でスタートする(2秒ほど余裕を持つ、スタート後の迷いをなくす技)
常に、このように発想しながら練習で獲得できるセーリング技術が「未知なるもの(目標到達)への備え」であると。
■質疑応答
初日の午後と二日目は、吹きすさぶ雪と低温により、選手からの質問に答える形のミーティングになりました。私の経験を話しながら、何とかシーマンシップ=未知なるものへの備えに繋がるように話しました。幸いにも選手達の意識が高く、集中力が途切れることなく専門的な質問が多く出されました。このようなところに、実績のある全国のジュニアセーラーたちが、国内留学をしてまで競技環境を求める福岡県の魅力を感じました。
選手、指導者の皆さん、寒いなか大変お疲れ様でした。講師である私自身が、なかなか経験できない緊張した時間を共有しました。本当に、ありがとうございました。(レポート・山本悟)
津リポート/強風なんかに負けるな!
三重県の津ヨットハーバーで行われたシーマンシップアカデミーは、冬型の気圧配置で風が強まる中での開講となりました。参加者は、高校生を中心としてLaserラジアル&4.7、シーホッパーSRのシングルハンダーが9人、420&FJのダブルハンドが20人でした。
■選手同士が意見をぶつけ合う
初日は開講式の後、強風でのポイントや練習内容を確認してすぐに海上練習を行いました。海上では20ノットを超える冷たい陸風が強弱と振れを伴って選手たちに襲いました。
シングルハンドは基本動作を中心にマークを使った練習や帆走練習を行い、バング等によるパワーダウン、フルハイクアウト等を確認し、ダブルハンドはリーチングで長い距離を走り、強風とスピードに慣れることから始めました。突然の振れや強弱の変化に苦戦し沈をする場面多くありましたが、そのような中でも津のセーラーたちは逞しく、笑顔でスピードを楽しんでいる様子でした。選手たちからは、「これまで練習した中で一番強い風だった」「強風を経験できて良かった」との感想がありました。
午後はさらに風が強まったため、陸での講習に内容を変更しました。
シングルハンドは艇へのマーキングの方法、強風に必要な筋力の強化方法等について実践を交えて学びました。ダブルハンドは質疑応答を行い、ヘルムスマンとクルーに分かれて自分の役割について話し合ったりしました。普段は別々の環境で練習している選手同士が積極的に意見をぶつけ合い、情報を共有し、新しく気づくことも多く、大変有意義な時間となりました。
■目標や課題を意識することが大切
2日目は朝から雪がちらつく厳しい寒さとなりましたが、風は平均で14ノットの好コンディションとなり、この日は全艇が出艇することができました。
シングルハンドでは帆走練習、ダブルハンドは動作練習とスタート練習を行い、前日のアドバイスをもとに、強風時の沈起こしやジブカットの方法等、多くの選手が海上で果敢にトライする姿が見られました。
午後は全体でレース形式の練習を中心に行い、スタート後に競り合う姿や積極的なプレーには成長の跡が見られました。選手自身もちょっとした意識でボートバランスが良くなったり、マーク回航がうまくいったりする変化を実感していたようで、技術を向上させるためには日々の練習において目標や課題を意識することが大切であることを伝えることができたように思います。
今回は2日間を通して強風での講習となりました。津では雪がちらつくことは珍しいとのことでしたので、厳しい状況下での経験が今後の練習にも繋がれば嬉しいです。強風に負けまいと積極的に取り組んでくれた選手をこれからも応援したいと思います。ご協力くださった皆様、寒い中を本当にありがとうございました。(レポート・大熊典子)
光リポート/セーリングの本質を見極めよ!
2018年3月10日~11日、山口県光市で シーマンシップアカデミーが開催されました。
■キーワードは「見る」
参加者は山口ゴールデンキッズで選抜されたウインドサーフィンを行なっている小中学生たちです。開催日前日までは、日本全国春の嵐となり、どうなることかと心配していましたが、蓋を開けてみれば2日間とも快晴で、風も平均10ノットという絶好のセーリングコンディションに恵まれました。
陸上での講義では「シーマンシップとは何か」から始めました。最初は遠慮がちで言葉少なだった子どもたちが、アカデミーが進むにつれてしっかりとした自分の言葉で疑問や考えを私や他のコーチにぶつけてくるようになり、シーマンシップのひとつ「コミュニケーション力」の向上が見て取れました。
海上での練習では、「見る」ということをキーワードとして様々なドリルに取り組みました。
この「見る」とは
1:マークを見る
2:風を見る
3:スタートトランジットを見る
4:他の選手を見る
などのことで、誰もが意識さえすればできるとても重要な要素です。参加した子ども達はとても真っ直ぐで、みんながこの「見る」意識を持ってセーリングすることができていましたので、技術やスタート、レース展開にもおもしろいアイディアが随所に見て取れました。
■セーリングは社会に誇れるスポーツ
光市でのシーマンシップアカデミーは本年度2回目となりますが、1回目よりはるかに子どもたちの技術が向上していました。技術だけではなく、目標に対する意識までもが高くなっており、彼らの成長にはコーチとしての喜びを感じずにはいられません。来年度も子どもたちの成長を見守ることができれば幸いです。
アカデミー事業は継続するほどに人間力を備えるセーラーの育成に繋がり、セーリングが社会に誇れるスポーツであることを実感できる素晴らしい取り組みです。このような指導の機会を作っていただいた、関係者、参加者の皆さんには感謝の気持ちで一杯です。本当にありがとうございました。(レポート・宮野幹弘)