はじめに
1/19(金)、元旦から日本を襲った能登半島地震による過酷な被災状況が報道される中、少し後ろめたい気持ちのまま、約四半世紀ぶりに今回の高知アカデミー開催地、高知県香南市(旧夜須町)を訪れました。姫路駅から新幹線に乗り、JR岡山駅から土讃線の特急南風に乗り換え、後免駅を経由して日本最後のローカル新線(平成14年7月1日開通)の土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線にて、ホテル最寄り駅のいち駅に着いた時にはネックウォーマーもニット帽も脱いでいました。
1/20(土)、21(日)の高知アカデミーは、この様に寒い被災地とは真逆の、南国土佐を肌で感じる状況から始まりました。講師には私、山本悟(ロサンゼルスオリンピック代表)が年末の光アカデミーに続き担当させていただきました。JSAFアカデミー委員会からは山田州子さんに帯同いただき、今アカデミーすべてのマネジメントと海上撮影に当たりました。余談ですが、アカデミー開催地の宿を決めてくださる彼女のセンスは抜群です。

高知アカデミーの参加者たち
練習環境と参加者
初日午前8時半、高知セーリング連盟の井土(いづち)春喜理事長と選手強化担当者、青木真先生にホテルから会場となる香南市マリンスポーツセンターに送っていただきました。その時、井土理事長の車の屋根には、小型ラバーボートが膨らまされた状態でカートップされていたのには驚きました。
センター敷地内には、同連盟が使用する艇庫があり、東側の手結港(ていこう)へと伸びる海岸道路を挟み、海側に陸置き保管バースと競技艇はもちろん、大小レスキュー用ラバーボートさえもすべて人力で上げ下げするスロープがあります。それらは、2002年に開催された「よさこい高知国体」用に敷設されたもので、当時人口5000人に満たなかった夜須町へ、新たなセーリング拠点が築かれた喜びと地元関係者の努力の証です。
到着後直ぐ、艇庫前にて久しぶりの再会となった谷田豊明会長に挨拶を行い、ミーティング場所となる艇庫2階へと案内されました。そこの大きな南窓からは広大な土佐湾が見渡せ、遥か西に眺望できる足摺岬から南、東へと延びる水平線は、地球は丸いと思わせる膨らみを帯びているように見えました。また、その壮大な景色とともに聞こえる潮騒は、心を癒すヒーリングミュージックそのものでした。
そこで初めて参加者名簿を渡され、光アカデミーと変わらない人数の名前が記載されていました。その内訳は受講対象のジュニア選手3名、ユース選手2名の計5名、指導者8名、保護者1名で、シニア選手1名、高知大学ヨット部18名が含まれていました。
シーマンシップとアクティブプラクティス(能動練習)

自然とのコミュニケーションの取り方について説明する山本コーチ
初日最初のミーティングにて、シーマンシップを「航海術」として説明した後「航海の経験がなくて当然だから実際にやってみよう。これから目の前の海をスタートして、フィニッシュを7000キロ先のハワイにしよう」と投げ掛けました。参加者達は静まり返り、唖然としていました。
そこから、既に500年以上前に帆船で航海した歴史を持つ欧州の技術と、現代の日本人に役立つ共通項として「自然とのコミュニケーション力」がある。コミュニケーションなので、先に自然状況を読み、安全を守りながら、コース選択、ボートスピード、ボートハンドリングに反映させてみよう、結果ではく自由に練習で試そうと伝えました。これは、光アカデミー初日午前の風待ち中に行ったミーティングにて、ユース女子選手から「どうやって自然とコミュニケーションを取って良いか分らない」との核心的な質問の答えとして強調しました。
練習はレース形式とし、スタートラインのアウターマークから30°に広げた左右2箇所にマークを打ち、反時計回りソーセージコース1周、元のスタートライン流し込みフィニッシュで、どちらのマークを選んでも良いと言うものです。この少しアレンジしたコース設定により、受講生は主体的にコース選択の根拠を探る(自然とのコミュニケーションを取る)ことから、能動練習=アクティブプラクティスと呼んでいます。練習後は即時集まり、受講生全員に探って決めたことや感想のプレゼン(発表)までが1セットです。コーチは、このプレゼンタイムに必要に応じコメントを挟みます。
2日間の練習レースは、以下の通りになりました。
初日午前:港湾内2レース 無風から微風の振れ回る風 風向風速が定まらないスタート
初日午後:港湾外3レース 軽風から中風の西南西の風 クローズスタート
2日目午前:港湾外3レース 強風の北風 ランニングスタート
2日目午後:吹きすぎて中止

プレゼンも大事なプログラムのひとつ
土佐のいごっそう?
アカデミー開始前に、関係者から「高知の子供は大人しいから、余り発言しないかもしれない」と聞いていました。香南市ジュニアヨットクラブ卒業生で、今回のジュニア選手3人を甲斐甲斐しくお世話していた長野遙コーチ(短大1年18歳)からは、それぞれの経験値、技術レベル、特性と細やかな情報が随時与えられ参考になりました。
ジュニア選手は三者三様で経験値は少ないものの、2日目の強風でも皆落ち着き、それぞれのセーリングスタイルを披露しました。

雄大な土佐湾での海上練習
特に、最も経験値が少ない1人は、沈をしても処理の動きが速く、精神的な萎縮を感じない運動能力の高さに、撮影していた山田州子さんとともに驚きました。これには、全国小中学生の体力テスト結果が低下傾向にあると報道で聞く中、まだまだ自然豊かで広々とした高知県では、高い運動能力が育まれ易いのではないか?とさえ感じました。JODA加盟クラブ並みの競技環境が伴えば、運動能力の高さをセーリングに生かす、国際競争力を持つジュニアセイラーが現れてもおかしく無いと感じました。
幼馴染みでライバル意識を持つユース選手2人は、スキルフルで知識も豊富でユニークでした。そのうちの1人は、2日目の強風でも暑いからと、ウエットスーツすら着ていませんでした。
今回の受講生5人は、確かに口数は少ないものの、自己紹介からプレゼンすべてにおいて自分の言葉で伝えてくれました。そこには、高知県男性の県民性を表す土佐弁「いごっそう(異骨相)、快男児、進歩主義、頑固で気骨のある男」が思い浮かびました。ちなみに、2日目の強風練習のみ参加してくれたシニア女子選手(ILCA6、高専4年)のスキルも高く、パワフルなセーリングは「はちきん?」と感じさせました。意味はお調べください。

運動能力の高さを感じた高知でのアカデミー参加者たち
南国土佐を後にして
約四半世紀ぶりの高知県香南市は、2002年よさこい高知国体の名残りを色濃く残していました。僭越ながら、国体開催後の競技団体存続、競技力維持のご苦労が伝わってきました。

よさこい国体の競技会場が今回のアカデミー会場となった
文頭のように能登半島地震の被災状況に後ろめたさを感じながら、暖かい高知県でセーリングができていることに幸せを感じました。折しも年末に長州藩であった山口県光市、年始に土佐藩であった高知県香南市にてアカデミー講師役をさせていただき、私も幕末の志士になったようでした。坂本龍馬は、今回見た土佐湾(太平洋)を眺めながら育ち、明治維新への原動力になったのか?
谷田豊明会長ほか高知県セーリング連盟の皆さん、本当にお世話になりました。2日間いただいた差し入れ、どろめ(新鮮な獲れたての鰯の稚魚)、シラス、金柑、文旦、フルーツトマト、地元のお餅は、どれも明らかに新鮮で秀逸でした。ありがとうございました。(レポート:高知アカデミー講師 山本悟)