第15回ジュニアユースセーリング・シーマンシップアカデミー 神奈川県・葉山2023/Mar/30
第15回ジュニアユースセーリング・シーマンシップアカデミーレポート
3月11-12日、今年度最終回となる標記アカデミーが神奈川県の葉山で開催されました。
ここ葉山は日本ヨット発祥の地であり、人材豊富な町の支援や抜群のロケーションとも相まって正しくヨットのメッカに位置づけられています。近隣のマリーナや海岸からはヨットに限らず様々な船舶が往来し、マリンスポーツや海を楽しむ人で溢れています。
毎回、この光景を目の当たりにするたびに、どうすれば日本全国の海岸線が同じように活性化するのだろうか、そしてシーマンシップが浸透するのだろうか、そんなことを思います。シーマンシップの浸透が進むこの地でアカデミーを開催するのは、私たちにとっては原点回帰、多様な人材や文化が融合するこの地で私たち自身を振り返り、新しい学びなども加えてコーチングを更新する機会と捉えています。
さて、そんなことで今回講師を務めたのは東京オリンピック49er級代表の小泉維吹くんと私、中村公俊です。
小泉くんとは同郷で、2011年に私たちのホームポート(光市)で開催された山口国体では選手と監督という間柄です。小泉くんは中学3年生だった当時から非凡で寡黙、言葉は少なくとも風を扱う技術と大局を見極める力は随一でした。そんな小泉くんとコーチという立場でセッションするのは感慨深いものがあります。葉山で合流すると今回のコーチング方法について話し合い、小泉コーチは参加者とヨットに乗ってベンチマークとなり、私はコーチボートからのコーチングを行う、というスタイルでいくことをまずは決めました。
アカデミー初日は前日からの雨も上がり、陸寄りの微軽風でスタートしました。午後にはきれいに10kt前後の海風に変わりました。2日目は晴れましたが寒気の影響か少し肌寒く、初日同様に午前中陸風、午後からは海風が10kt前後入りました。
今回参加してくれたのは、葉山町セーリング協会に所属する中高生セーラー総勢22名と同協会指導者・保護者の皆さんです。対象種目は420級8艇で、22名がヨットとコーチボートを乗り換えながら海上練習に参加しました。乗り換えがあると一見、不効率にも思えますが、今回のように技術の高い選手(小泉コーチ)が一緒にセーリングするような場合、同乗者や並走艇が感覚を磨き、ボート上では、客観的な視点でトップセーラーをよく観察してセーリングイメージを更新する、こんなことを交互に繰り返すことによってセーリングへの理解が深まり、感覚や技術の習得が進みます。
もちろんセーラーとしての土台が固まって以降は質の高いセーリングをどれだけ長い時間継続できるかが勝負となります。葉山町セーリング協会は方針として、小学4年生までにOP級でスタートし、中学2年生からは420級や29erにステップアップします。今回はタイミング的にOP級から420級にステップアップして間もない小柄な中学1年生が参加していたこともあり、日和としては選手にとってもコーチにとっても最適な2日間でした。
講習は、初日のはじめに自己紹介を兼ねて今アカデミー中の目標や現状課題をプレゼンしてもらい、その上で午前中はレース形式の練習を行って、実際の状態を私たちコーチが把握する機会としました。昼休みに小泉コーチと話し合い、残りの1日半で伝える内容や練習方法を具体化しました。
本アカデミーでは、可能性無限大の若いセーラーや比較的ビギナーをコーチングしますので、彼らの個性をポジティブに捉える、セーリングを楽しみ夢中にさせる、主体的かつ積極的に考え行動させる、これらの方針のもとに「アクティブ・プラクティス」という練習方法を開発・推進して参りましたが、今回に限っては、既に多くの選手がアクティブな状態にあることが分かりましたので、ウォーミングアップとしてスーパーショートマークラウンディング、その後はシンプルにレース練習を組み合わせました。肝となるのは海上練習後、それぞれが正確に次につながるような振り返りが出来るかどうかです。
講習中、私たちは選手の積極性や主体性を引き出すためのコーチングに気を配りましたが、その中でセーリング競技について伝えたことをご紹介します。
一つ目は、レースには小局と大局があるということです。小局とはセーリング力(技術力)のことで、今まさに受ける風や波や潮流を捉えて技術(ボートバランス・セイルトリム・ステアリング)が発揮されているかということです。大局とは、レース力(展開力)のことで、気象・海象・ロケーション・艇団を捉えて正しい海面に進路を取っているかということです。また、両局を捉えるためには先読みが重要で、そのためにはオブザーブ(観察)が必要であることを伝えました。
二つ目は、その人の競技力はその人の総合的な人間力に比例するということです。即ち競技力を高めることは、そのプロセスも含めて総合的な人間力(生き抜く力)を高めることに通じており、それこそが正にシーマンシップであるということを二人からのメッセージとして伝えました。
最後の振り返りの時間に選手の皆さんに次のことを問いました。競技力や総合的な人間力を高めるためにはコミュニケーション力が重要で、セーリングでは4つの事と随時コミュニケーションを図るのですが、4つの事とは何ですか?驚いたことに4つともパーフェクトな答えが返ってきました。ちなみに答えは、①自然、②他者、③道具、④自分です。冒頭に申しましたとおり、葉山にはシーマンシップが浸透しているからこそ人が集まり、育っていくのだと確信しました。
おわりに、今回、私たちの思いやメッセージ、研究成果を披露する機会を与えていただき、行事中は私たち二人が進行しやすいよう海陸において万全のサポートをしていただいた会長をはじめとする葉山町セーリング協会のコーチ陣、保護者の皆さまに感謝申し上げるとともに、参加していただいたジュニアユースセイラーの皆さんの益々のご活躍を心から祈念して葉山レポートといたします。(ジュニアユースアカデミーコーチ 中村公俊)