2022ジュニアユースセーリング・シーマンシップアカデミー 愛媛県・新居浜2022/Nov/24



Junior&Youth Academy

新居浜、松山のジュニアユースセーラーたち



■はじめに
2022年年11月5日(土)~6日(日)、瀬戸内海の四国側最奥部、風光明媚な燧灘(ひうちなだ)に面した愛媛県新居浜市にて新居浜アカデミーが行われました。会場となったのは、2017年愛媛国体会場の新居浜マリーナです。ここは、西側から北側に連なるしまなみ海道をはじめ、更に東側へとパノラマに多島美を臨むことができます。ただし、瀬戸内海でも特に風が吹かないことで有名なばかりか、潮流は絶えず干満の転流を繰り返すセーラー泣かせの水域です。

受講生は地元B&G新居浜海洋クラブ、同じ愛媛県内のB&G松山海洋クラブ、隣県の香川県からB&G高松海洋クラブと、日頃から交流しあうクラブからジュニアセーラー15人(小3~中3)が参加してくれました。講師は私、山本悟(ロス五輪470級代表)と中村公俊(アカデミー委員長)が担当しました。

■自然とのコミュニケーション力
今年度からシーマンシップを正しく伝える一つの手段として「自然とのコミュニケーション力」の大切さを問うようにしています。これは、ヨットレース上の戦術(ストラテジー:自然の変化を読むこと)とも符合しており、シーマンシップ(航海術に優れていること)がより参加者に伝わりやすいという考えからです。この解釈は日本海洋大学名誉教授、杉崎昭生先生の「新シーマンシップ考」を参考にしたものです。

■アクティブプラクティス
2017年から受講生の「考える力」を引き出すために、学習手法の一つであるアクティブラーニング(主体的、対話的、深い学び)を採り入れています。今年度からは、競技スポーツ的に「アクティブプラクティス」(能動的な練習)と呼び方を改め、下記の通り実践しています。
・コースはスタートアウターマークから30度に広がる左右にマーク2個を打つ二等辺三角形とする(1周20分以内)
・回り方は時計回り、反時計回り自由
・最初のレグがクローズとは限らない
・半日に3レースまで
・練習前のミーティングで条件のみ伝える
・指導者の助言は最小限、できれば無言
・海上練習後は全受講生がどのように自然を読んでコースを決めたか等をプレゼンする(パスOK!)
・コーチは各受講生のプレゼン後に助言

■何かが起きた⁈
初めての試みに、スタート前から受講生の集中力が伝わってきます。練習後のプレゼン時、最初はパスする受講生もいましたが、2回目からは皆無でした。言葉に詰まる下級生に「パスしてもいいよ」と伝えても決して諦めません。年齢や競技力に関係なく自尊心の高まりを感じます。

2日目の午前中、フィニッシュライン付近で関係者から拍手が起こりました。ん?何かが起きた?それは、唯一の女子受講生(小5、新居浜)がダントツのトップフィニッシュを果たしたことによるものでした。艇の装備は特別ではないし、セールは一番古いように見えます。セーリング歴は2年未満らしく、前週末に行われた公式レース「坊ちゃんカップ」ではBクラスで参加とのことです。

彼女は他の全OP 受講生が沖のマークに向かう中、唯一岸よりのコースを選び、どんどん差を広げました。その状況をレース中にいち早く察知した中村委員長は、各マークの潮流を調べました。その結果、彼女は岸から始まった転流に乗りながら最初のマークを回り、次の沖のマークからは時間差で転流する前の潮流にうまく乗ってフィニッシュすることができたのです。これは、他艇との駆け引き以上に自然とのコミュ二ケーション力が発揮され、彼女のシーマンシップが証明された結果でもあります。

■最後に
今回起こったことは偶然かもしれません。それでも、「自然とのコミュニケーション力」が大きなアドバンテージを持つことは明らかです。同時に、私たち指導者も知識と経験を蓄積し、更新し続けなければいけないことが分かります。(私がオリンピックに勝てなかったのは、このせいか!?)
今後もこの事業が継続し、多くの学びや気づきが蓄積されて、日本セーリング界の礎となることを切に願います。(レポート/ジュニアユースアカデミーコーチ 山本 悟)

on the water academy

自然とのコミュニケーションを図るセイラーたち



【現地指導者レポート】

この度は、新居浜にアカデミー講師を派遣していただきありがとうございました。天候にも恵まれ、たいへん有意義な2日間となりました。

「自然とのコミュニケーション力」「アクティブプラクティス」が大きなテーマとなった今回のアカデミーですが、海上練習の合間に設けられたプレゼンタイムが呼び水となり、海上でもしっかり考えたセーリングができていました。練習内容を工夫することで、今後の子供たちのセーリングがさらにレベルアップしていくように感じました。特にレーザークラス、OP-Aクラスの選手たちはセーリングの何かを掴めたのではないでしょうか。

日頃の練習では、私たち指導者や保護者が子供たちの成長や成果を急ぐあまり、子供が感じたり考えたりする余裕を与えずに答えを求めたり、答えそのものを教えてしまい、逆に風や潮やまたその先の展開を予想するというセーリングをする上で欠かせない先読みする力や判断力、想像力を育む機会を奪ってしまっていたのではないか⁉ 今回のシーマンシップアカデミーでは、私たち指導者や保護者も成長する気づきや学びを与えてもらえたと感謝いたします。

ぜひ来年も、今回参加した選手たちの成長を確かめるためにも新居浜に来ていただけたら、と思っています。(B&G新居浜海洋クラブ 山内 真斗夏)

presentation

能動的にプレゼンするセーラーたち


Active Practice

アクティブプラクティス実施風景