JSAFジュニアセーリングシーマンシップアカデミーは、7月29日~30日、北海道室蘭市のB&G海洋センターで開催されました。
■室蘭アカデミーのテーマは「頼らない 頼らせない」
初日練習後の着艇時でした。
スロープの幅は狭く、陸からの向かい風でしたが、決して着艇できない状況ではありません。ところが、ほとんどのセーラーが水際のかなり前で艇を止めてしまい、岸に辿り着けませんでした。当然やり直しを余儀なくされますが、次に私の予想とは逆の状況が起こりました。
それは、セーラーが状況に対するアプローチを変えたのではなく、見ていた周りの人たちがアプローチを変えたのでした。水際から海の中に入り、届かない艇を捕まえてくれました。再度近づけない選手には、さらに深いところまで入ってくれました。もしかしたら、アカデミー全体の進行を遅らせまいと、関係者が配慮してくれたのかもしれません。その気遣いは大変にありがたいのですが、セーラ―自身が少し考えれば着艇できるはずなのに、コーチとして伝える立場からは複雑な思いでした。
「板子一枚下は地獄」という言葉があります。
我々セーラーも危険な水上に出る以上、自力で出て自力で戻ること前提とした責任感とセーリング技術が必要です。少し大げさかもしれませんが、我々はシーマンシップを求めながら、考え方はまだ陸の感覚のままで、まだまだシーマンになりきれていないのかもしれません。
今回の講師はアテネ五輪銅メダリストの轟賢二郎コーチと、ロサンゼルス五輪代表の山本悟が務めました。JSAFからは、ジュニアアカデミー委員会の山田州子委員が帯同しました。
参加者は、地元室蘭セーリング協会のジュニア&ユースセーラー、小樽ヨット少年団、小樽水産高校、小樽海上技術学校、函館水産高校、室蘭工業大学、そして岩手県から宮古市ジュニアヨットクラブと選手だけで約40人、保護者・指導者が約30人、そこに室蘭市長、教育長ら来賓の方々で100人近い人数になりました。
今回のアカデミーは、第36回全道少年少女ヨット室蘭大会と宮古市-室蘭市ヨット交流会のイベントと並行して行われました。的確なレース運営や選手のおかあさま方による美味しい食事、期間中の円滑な進行と素晴らしいホスピタリティに、この日のための事前準備にどれほどの人員とエネルギーが費やされたのかと感心させられました。これも、今年度から北海道セーリング連盟の会長に就任された福田さとし前室蘭セーリング協会会長をはじめとする関係者の皆様が共有される理念と努力の賜物と思います。
■室蘭でのセーリング熱気は確実に強くなっていました
初日は、轟コーチがシングルハンドクラス20艇、私がダブルハンドクラス10艇を担当しました。室蘭港内は本船航路が近く、限られた海面でシングルハンドクラスはマーク回航中心に行い、ダブルハンドクラスはセーリング練習を行いました。
2日目は、レースを通してのコーチングでした。
轟コーチは、今回特別に許可されたレース中のコーチングを、マンツーマンに近い形で積極的にアドバイスしていました。私は運営艇スタッフも兼ね、OP初級の選手を見守りました。
レース中、1人の小学生低学年の選手がフィニッシュラインを間違えました。それを伝えると、泣き出してセーリングをしなくなりました。てっきりリタイヤすると思い声をかけましたが、何も答えませんでした。そして選手は泣きながらも気持ちを立て直して諦めずフィニッシュラインまで辿り着きました。
私にとって、室蘭はアカデミー講師となった初めての場所です。それから5年が経過し、延べ15回ほどアカデミーの講師をさせていただいています。しかしながら、回を重ねるごとに、レースに必要な技術ばかりにとらわれ、シーマンシップについて伝えられていなかったことに気づきます。前述のOP初級選手の行動は、これからシーマンシップを共有するヒントになりそうです。
室蘭市の象徴ともいうべき白鳥大橋のたもとで、「世界一の風見だな!」と思わせる風力発電の風車が回る風景は変わっていませんでした。しかし、室蘭でのセーリング熱気は確実に強くなっていました。
室蘭セーリング協会の皆様、本当にお世話になりました!(レポート/山本悟)
ジュニア・ユースアカデミー委員会
https://www.jsaf.or.jp/hp/about/committee/j-academy