Race Committee
レース委員会

クラブ・レースオフィサー制度新設の趣旨

2002年10月19日
JSAFレース委員会

これまでも機会あるごとに強調してきましたが、レースオフィサー制度は資格の有無によってレース運営要員を制限しようとするものではなく、 制度の目的にある通り、競技運営全体のレベル保持と安全を確保して、競技者、運営、審判など、 その競技会に参加したすべての人たちが大会を楽しめるようにするための制度です。

セーリング競技会では、競技者は自らのスキルを存分に発揮してセーリングスピードを競い、 審判は競技過程で生じるルール上の問題点を専門的知識と経験よってジャッジングします。 運営スタッフは適切なコースを設定し、競技進行を采配し、各競技者が公平に実力を発揮できる場を提供し、 そして、予定された期間内で競技者の納得のできる結果を出せるように競技を運営することが仕事になります。 結果を出すことも大切ですが、運営スタッフに求められるもうひとつの重要な仕事に、自らを含めて競技会参加者全体の安全を確保することがあります。

このように、運営スタッフの仕事はセーリング競技会において非常に重要なものですが、これまでは、大きな責任を負うレース委員長を除いて、 誰にでもできる雑務――お手伝い程度でまかなえる域を出ない仕事、というほどの認識しか持たれていないのが実情でした。

確かに、フラッグの揚降、音響信号などは、仕事としては非常に単純な仕事です。しかしこれらの仕事のわずかなミスでも、抗議や救済の要求の対象となって競技会全体の進行を妨げることもあり、審問の結果によっては大会そのものに不満を残すこともあります。もちろん人間のやることですからミスが皆無になることはないでしょう。しかし、その仕事の重要性やレース進行の中で占める仕事のポジションをはっきり認識することにより、そうした単純なミスはかなり減らせるはずです。P旗の担当者であっても、スタート海域の風の変化に常に目を配っていれば、大きなシフトによって、もしかするとレース委員長がAP旗の指示を出すかもしれないと降下の心構えをすることもできますし、今どのクラスのスタートが行われているのかきちんと認識していれば、次の降下の後にすぐに掲揚する必要があるのかどうか、準備する事ができます。

そう、本来はレース運営も(たとえ単純な仕事でも)非常に専門的な知識を要する仕事なのです。 しかし、現実にはレース運営の専門的知識を多くの人に要求することは困難で、いきおい数人の経験者を中心として、 あとは手足として働ける「お手伝い」を集めて運営スタッフとする状況が続いていたのです。

レースオフィサー制度は、ISAFのリードにより国際的な気運を得てスタートした制度ですが、日本においてはレース運営レベルの水域間格差を解消し、同時にレース運営のノウハウをより多くの人たちに知らしめる好機となりました。すでにエリア・レースオフィサー(ARO)とナショナル・レースオフィサー(NRO)の認定が行われ、レース委員長、あるいは海上でのレース進行を行う責任者たる資質を持つ人々が各地で認定されています。

レース運営もレースに参加するひとつの形であり、セーリング競技の楽しみ方のひとつです。楽しみで、そしてボランティアの気持ちでレース運営を補佐していこうという人々も大勢います。こうしたレース運営に携わるすべての人たちにNROやAROのようにレース委員長たる資質を問うことも無理がありますが、一方で、レース運営に携わる人たちはみんながレース運営の責任の一端を担うことも事実です。そのために、どのような形でレース運営に携わるにしろ、スタッフにはやはりある程度のレース運営の知識をもってもらうことは大切であり、そうすることによってセーリング競技の円滑な運営と安全を確保できると思います。

このように、レース運営の一端を担う人たちを対象としたレースオフィサー制度として、レース委員会ではクラブ・レースオフィサー(CRO)制度をスタートさせることにしました。これは、レース運営全体を監督するレース委員長となるほどの資質を要求するものではなく、フラッグ、計時、音響、マークボート、陸上本部などパートごとの仕事を責任もってこなせる資質を認定する制度です。そして、こうした人たちが次のAROとなり、NROとなり、日本のセーリング競技のレベルを押し上げてくれることを期待しています。

CROの認定により、これまで単なる「お手伝い」でしかなかった人たちが、本当の意味で「運営スタッフ」となり、責任を持ってレース運営に携わることができるとともに、レース運営自体をより楽しむことができるようになるでしょう。単に言われるままに旗を上げ下げする「手足=兵隊」ではなく、自覚を持った運営スタッフであり、その資質が公に認定されることで信頼も得られることになると思います。

CRO制度の意義をご理解いただき、多くの人たちがCRO資格を取得してくださるようお願いします。