オリンピックが開催されたことに感謝します。
困難な状況の中でこの大会を実現された組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)、
政府など関係の皆様のご努力に御礼を申し上げます。
また、応援して下さった皆様、ご支援いただいた神奈川県、藤沢市、商工会議所はじめ地元の皆様、
そしてスポンサーの皆様、本当に有難うございました。
そしてこのような状況の中でいまもコロナと対峙している医療はじめ全ての関係者に心から感謝を申し上げます。
日本セーリング連盟(JSAF)は、2013年9月7日にブエノス・アイレスで東京招致が決まったその日に
「オリンピック準備委員会」を立ち上げ、メダル獲得のための選手強化と、
ホスト国として世界から集まるセーラーに満足してもらえるような運営体制のための要員育成を
二大目標として活動してきました。
このため、2020年までに多くの世界選手権やワールドカップを招致し、
世界の強豪と多くの日本選手が競える環境を提供しつつ、
同時に、レース運営要員の技量を高める機会を創ってきました。
併せて早くからボランティアを募り、国際レースに慣れていただき、
組織委員会のボランティアに移行してもらいました。
7年の予定が8年経ちました。
選手強化については、2019年まではこの戦略が効果を発揮し、
2018、2019の2年間で日本選手は国際大会で金2、銀4、銅1のメダルを獲得し
報奨金を約束していたJSAFはうれしい悲鳴を上げたくらいです。
しかし、この状況はコロナで一変しました。国際大会の招致も海外遠征もままならなくなりました。
結果は皆さまご覧のように470級男女の2種目の入賞にとどまりました。
ホーム・ウォーターでメダルを逃したことは不十分な結果で、
応援していただいた皆様には大変申し訳なく思います。
私たちに何が欠けていたかは、これから強化委員会が分析ご報告することになりますが、
私が現時点で感じていることを申し上げておこうと思います。
コロナの状況下で海外遠征や国際大会の開催を模索しましたが、海外遠征は限られた機会に止まり、
国際大会もギリギリまで努力しましたが、選手の来日が制限され断念せざるを得ませんでした。
選手は、海外の競争相手の調整状況を把握できないままに本番に突入し、
以前と違う手応えに、僅かだったかも知れませんが
戸惑いを感じつつのレースになったのではないかと私は思っています。
欧州勢は場所を選んで合同で練習をしていたようです。
日本チームでは、従来からニュージーランド、豪州で練習を続けた49erチームが例外でしたが、
メダルレースにあと一歩と迫る成長を見せました。今後の参考です。
一方、運営サイドでは、沖寄りのコースが水深80~100メートルに達する江の島の海で
迅速かつ正確にマークを設置するなど熱心な練習でスキルを高め
国際セーリング連盟からも「パーフェクト」という賛辞をいただきました。
陸上部隊のスタッフもコロナ禍で十分な資機材を持ち込めなかった国からのチャーターボートの要請に
全力で応えるなど昼夜兼行必死の努力でした。
海外チームからは大変感謝されました。
私は、全日程をオリンピック・ファミリー・ラウンジで、IOC会長、委員、各国NOC会長、ワールドセーリングの幹部、
各国セーリング連盟の会長などの対応に当たりましたが、
誰からもコロナ禍の不便さについての不満はなく、「素晴らしい運営だ」とお礼を言われ続けました。
ホスト国のセーリング連盟としての責任を果たせたと思っています。
JSAFが組織委員会に送り出した約300人のスタッフの働きを誇りに思います。
組織委員会のセーリングチーム全体のご努力にも敬意を表します。
最後に、この8年間にオリンピック準備のために一緒に汗を流した何人もの方を失いました。
山崎名誉会長、川上前レース委員長、江の島ヨットクラブ前会長青山ご夫妻、
森蒲郡ワールドカップ実行委員会副会長、長谷川前日本ウインドサーフィン協会会長、
江の島のメディカルチームのリーダーだった山川先生。
一緒にオリンピックの場にいたかった。
全期間好天、無事故で守っていただいたのかも知れませんね。
有難うございました。
以上で終了直後のご報告とさせていただきます。
公益財団法人 日本セーリング連盟
会長 河野博文
東京2020オリンピック セーリング競技 監督 中村健次
【はじめに】
東京2020オリンピック競技大会が終了いたしました。パンデミックの中、医療現場に携わる皆様、開催を受け入れてくださった日本の皆様に感謝いたします。選手は江の島の海で、最後まで全力で走り、感染することもなく無事にオリンピックを終えることができました。競技の細かい分析にはまだ時間が必要になりますが、簡単ながら総括報告をさせていただきます。
【代表選考について】
オリンピックのセーリング競技10種目中、日本はWorld Sailingの定める国枠獲得基準を基にした日本独自の選考方針で2020年中に9種目の日本代表を選考しました。日本では馴染みのないクラス、過去オリンピックで国枠獲得を逃したクラスも参加枠を獲得できたことは、日本が欧米諸国に近づいた証だと言えます。残る1種目のFINN級については、World Sailingの指定した国枠獲得大会の中止が相次いだため、オリンピック選手登録締め切り直前の2021年5月に国内で代表選考大会を開催し、全10種目がオリンピックの舞台で活躍できることになりました。
今回のオリンピックでは、国枠獲得大会の世界選手権でトップ10に入った470級男子女子、Laser Radial級、RS:X級男子の4種目が入賞あるいはメダル獲得の可能性がありました。そのほかのクラスも最後まで調整を行い、上位を目指すこととなりました。
【本番までの強化活動】
日本チームは複数のメダル獲得を目指し、それぞれのクラスが最善と考える強化計画を立案していましたが、コロナ禍の影響により海外大会の中止や延期、渡航制限や代表選手の所属先からの渡航自粛などの想定外の事態が起こり、計画は崩れました。海外の強豪国は、コロナ禍による制限が緩み始めた2020年後半になると、ライバル選手達が集まり頻繁に練習しているとの情報が入ってきました。それが日本の代表選手達の耳にも届き、さらに彼らを苦しめました。何をすれば日本の選手のモチベーションを維持できるか、そしてレベルを上げていけるかを関係者で協議し、競争原理を最大限に活用しようと考えました。国内での活動選手の多いクラスについては、パリオリンピックを目指す選手および次世代有望選手を招集して何度となく合宿を行いました。また冬期間は沖縄県の協力の下に長期的な強化合宿を実施、とにかく練習時間を確保し、スピードアップ、レース形式での練習、陸上トレーニングによる体力強化を行い、2021年3月からは神奈川県の協力を得て葉山新港にて継続的に海上練習を実施しました。一方、国内での活動選手の少ないクラスでは、所属先から許可を得た一部の選手については、徹底的なコロナ対策を行い、関係各省庁・団体の指導のもと、宣誓書などのレターを調えるなど、試行錯誤を繰り返しながらなんとか準備を調え、海外へ遠征し強化を行いました。
【オリンピック直前】
日本選手は、7月13日の選手村オープンに合わせてほとんどの選手が神奈川県大磯町に設けられた選手村に入村しましたが、濃厚接触のリスクを減らすために、1クラス1部屋を基本に考えて、4名の選手はスタッフと同じ藤沢のホテルに入ることとしました。また、レース開始日の遅いクラスは長丁場になるため、それぞれが大会に向けてベストになる様ように入村日を遅らせた選手もいました。 セーリング競技は、最初の種目であるRS:X級男子/女子、Laser級、LaserRadial級が7月25日から始まり、最終種目である470級男子/女子のレースが8月4日までの全日程で11日間。とても長く、精神的にも体力的にもタフなオリンピックとなりました。
【大会期間中のサポート体制】
オリンピック期間中は、選手が今まで培ってきた成果を存分に発揮し続けられるように、これまでの知見を活かした万全のサポート体制を以って臨みました。
・ルール対策について、会場内外にルールアドバイザー・スタッフを配置しました。その結果、大会期間中に抗議に関する失格もなく、また、日本から他国へのプロテストも自信をもって行うことができました。
・選手の体調を万全にするため、栄養サポート1名による捕食の提供、ケアサポート3名による筋肉回復や打ち身などへの早期対処、アイスバスの設置など暑熱対策を行いました。
・気象アドバイザーも配置しました。風の変化、潮流変化も数年にわたり継続して調査しましたが、年ごとに異なる地球規模の気候変動の影響もあり、規則性を見出すことができず、結果的に地元の優位性を確認するデータには至りませんでしたので、日々の予報の提供に加え、各コーチが海上での情報確認を行いました。
【大会期間中の気候】
天候は毎日が30℃を超す真夏日となりましたが、台風の影響もなくほぼ予定通りのスケジュールで、予定されたレース数もすべて実施されました。今年は相模湾で吹く夏風も弱く、レース全体では軽中風域で行われ、強風域のレースはありませんでした。
遠く離れた台風の影響で、夏には珍しい北・東風のレースが2日間続きました。
【戦況と結果】
大会結果については、まだ細かく競技分析が終わっておりませんので、ポイントのみ記載いたします。
メダル獲得を狙った470級男子/女子については、スタートの成功率が高くなかったことが、上位に進めなかった要因であったと考えております。
470級女子(吉田愛・吉岡美帆):7位/21艇中【メダル獲得国:GBR、POL、FRA】
470級女子の吉田・吉岡組は、中風域以上では海外選手に対してアドバンテージがあると予測していましたが、その中風域以上のレースで上位を獲得できなかったことが、メダル争いが厳しくなった直接の原因です。
子育てとの両立など、多くの苦労をしながらメダル獲得を目標に頑張ってきたチームですので、とても残念です。しかし2大会連続の入賞は、誇れる結果であると言えます。
470級男子(岡田奎樹・外薗潤平):7位/19艇中【メダル獲得国:AUS、SWE、ESP】
470級男子の岡田・外薗組は、軽風域が得意なチームでしたので、中風域以上のボートスピードを向上させることでメダルが狙えると想定していました。初日の中風域で順位をまとめることができたのでメダルの可能性を感じましたが、後半に入ってから得意なはずの軽風域が伸びず、メダル争いから遠ざかったと言えるでしょう。それでも初出場で入賞を果たしたことは讃えたいと思っております。
49er級男子(高橋陵・小泉維吹):11位・19艇中【メダル獲得国:GBR、NZL、GER】
49er級の高橋・小泉組は、ニュージーランドを拠点に活動してきた若手チームです。リオ大会金メダリストや世界選手権上位チームと練習できる環境があり、今大会はメダルレース進出を目標に大会に臨みましたが、10位まで4点という僅差で11位となりました。今後の活躍が非常に期待できるチームです。
49erFX女子(山崎アンナ・髙野芹奈):18位/21艇中【メダル獲得国:BRA、GER、NED】
49erFX級の山崎・髙野組は、大会前の合宿を通じ、軽風域での自信を持てるまでに準備を重ねて本番に臨みました。得意な風域では上位でフィニッシュするレースができましたが、初日の沈、怪我(軽微)、リコールがあり、予想している成績を納めることができませんでした。まだ若く、今後の活躍をおおいに期待したいチームです。
FINN級男子(瀬川和正):16位・19艇中【メダル獲得国:GBR、HUN、ESP】
FINN級の瀬川選手は、レーザークラスでの選考に敗れた後、2020年3月にFINNに転向、短期間で体重を15㎏以上増やし代表選考に臨み、代表権を獲得しました。コロナ禍で選考レースが国内で開催されたため、FINNでの国際大会の経験がないままに本番を迎ましたが、オリンピック直前の江の島での練習で海外選手の技術を学び、本番ではFINNセーラーらしいセーリングを見せてくれました。
Laser級男子(南里研二):30位/35艇中【メダル獲得国:AUS、CRO、NOR】
Laser級の南里選手は、2008年北京以来のLaser級でのオリンピック出場を果たしました。実力通りの順位となりましたが、選手層の厚いこのクラスの中で、複数のレースではメダリストと同等の走りを見せる場面もありました。
Laser Radial級女子:15位/44艇中(土居愛実)【メダル獲得国:DEN、SWE、NED】
LaserRadial級の土居選手は、2017年世界選手権3位、2020年世界選手権8位、東京オリンピックヨーロッパ予選3位と、メダル候補と言っても恥ずかしくない成績を残していました。そのため、自身でプレッシャーをかけすぎてしまい、のびのびとレースができなかった感があります。序盤でメダル圏内の順位を取れなかったことから歯車がかみ合わず、立て直すことが最後までできずに、持てる実力を十分に発揮しきれなかったのは残念でした。
Nacra17級ミックス(飯束潮吹・畑山絵里):15位/20艇中【メダル獲得国:ITA、GBR、GER】
Nacra17級の飯束・畑山組は、2020年末より感染対策を徹底した上で長期ヨーロッパ遠征を繰り返し、強化を図りました。テレビ中継では下1スタートを決めて、素晴らしい場面を見せてくれました。RS:X級男子(富澤慎):16位/25艇中【メダル獲得国:NED、FRA、CHN】
RS:X級男子の富澤選手は、本番に向け良い状態で調整ができたことで、序盤はリスクをとらないレース戦略を取りましたが、結果的に積極性を出せず、序盤で上位を獲得できなかったことで、⾃らを悪循環に追い込んでしまったように思います。失敗を恐れず、思い切りの良いレースができていれば、と思うと残念でした。
RS:X級女子(須長由季)12位/27艇中【メダル獲得国:CHN、FRA、GBR】
RS:X級女子の須長選手は、ロンドンオリンピックに続き9年越し2回目のオリンピック出場を果たし、入賞を目指しました。課題である軽風域で順位を安定させるために体重をコントロール、チューニングなどに取り組んできた結果、予選シリーズでは上位でフィニッシュするレースもいくつかありました。メダルレースにはあと一歩のところで届かず残念でしたが、よく走りました。
コロナ禍の影響で活動制限を余儀なくされ、東京オリンピックの開催自体どうなるのか、さらなる感染の拡大、オリンピック開催に対する世論など、選手達の不安・焦りは図り知れないものがありました。そんな中でも選手達は、ただただひたむきに毎日のルーティーンをこなし、練習をし、できることをしっかりやって、多くの国民の「期待」を背負い、自国でのオリンピックに出場し、オリンピックという大舞台で存分に戦ってくれました。私は、この15人のセーリング日本代表選手全員に対し「よくやった!」と心から讃えたい。選手の皆さん、本当にお疲れさまでした。
最後になりますが、世界的なコロナ禍で、不安を抱えながらも東京オリンピック開催を決断したIOC、組織委員会、東京都、日本国政府には開催をしていただいたことに感謝いたします。また、セーリング競技の開催にご尽力いただいた神奈川県、藤沢市をはじめとした地元関係各位、全国各地で代表選手の強化活動を受け入れていただいたハーバー関係者の皆様、ご支援いただいたスポンサーの皆様、運営スタッとボランティアの皆様、そして、応援してくださったすべての皆様、本当にありがとうございました。
メダルを獲得して、皆様と喜びを分かち合うことは叶いませんでしたが、自国でのオリンピック開催がレガシーとなり、今後のスポーツ界の発展に寄与してくれると信じております。
選手、サポートスタッフの皆さん、お疲れさまでした。このオリンピックでの貴重な経験を地元にもち帰り、セーリングの楽しさ、オリンピックのすばらしさを発信してもらい、次への世代に繋げてほしいと思います。