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テーザー世界選手権

石丸寿美子さんのレポートです


テーザー世界選手権/イギリス・ケント州 ウィツタブル2001年8月17日〜24日

テーザー世界選手権
〜誰でもチャレンジできる世界選手権、あります〜
二年に一度のテーザーセーラーたちの祭典

テーザー世界選手権/イギリス・ケント州 ウィツタブル
2001年8月17日〜24日  レポート:石丸寿美子


大会3日目のレース Photo by Champion Marine Photography

サンデーセーラーの海外遠征
海外遠征でのヨットレースというと、最新鋭ボートによるグランプリレースや南の島で繰り広げられるクルーザーのリゾートレースか、または厳しい予選や、オリンピック種目のレースなどをイメージしがちだが、個人でレース活動をしているごく普通のディンギーセーラーでも世界の舞台で腕試しできるのが、テーザー世界選手権。サンデーセーラーだって世界選手権にチャレンジできるのだ。
アスリートでない、普通の男女が楽しめるハイパフォーマンス・スポーツディンギー、テーザーは、クラスルールで画一化されたワンデザインプリンシプルにより、レース仕様の艤装やチューンナップに大金をつぎ込む必要はなく、純粋に腕で速さを競うことができる。また、軽量快速艇でありながら、シンプルな艤装でビギナーでも入りやすいボートだ。
そして、そのテーザー世界選手権には予選というものがない。つまり出ようと思えば誰でも参加できる世界選手権である。とは言え、レースのレベルが低いわけではなく、上位陣はオリンピックのメダリストを始めとし、他クラスで幅広く実績を積んでいる経験豊富なセーラーが名を連ねている。個人でレース活動を楽しめるツーマンディンギーとして、あるいは夫婦や仲間と楽しめる手軽なボートとして、国内でも人気が高まりつつあるクラスであるが、世界の大物セーラーと同じ土俵で戦える世界選手権は、普段からトレーニングを積んで本格的なレース活動をしているチームのみならず、企業ヨット部や地域のセーリングクラブなどでレースを楽しんでいるサンデーセーラーにとっても明確な目標となり、大きな魅力にもなっている。

ハイレベルなレース
2001年テーザー世界選手権には、イギリスの南東部、ケント州のウィツタブルで開催され、7カ国から100艇が集まった。各国のナショナルチャンピオンや過去のワールドで入賞経験を持つベテランから最近台頭してきたヤングスターまで大物が揃い、ハイレベルなチャンピオンシップになることが当初から予想されていた。日本からは、8チームが自艇をイギリスまでコンテナ輸送し、また2チームが現地でチャーターボートを手配しレースに臨んだ。その顔ぶれは、スポーティブな夫婦ペアをはじめとして、上位入賞を目指す実力派チームや、企業ヨット部チーム、熟年テーザー愛好家など、年齢も17歳から75歳までと実に様々。その中で前回の浜名湖ワールドで日本人最高位の2位を収めた稲毛の田中夫妻組、僅差の逆転劇で3位に甘んじた葉山の本吉親子組が世界の強豪相手にどのような走りを見せるか、またおおむね軽風が予想されるコンディションで、軽量の日本人チームがどこまで上位に食い込めるかが注目された。
プラクティスレースでは日本のエース、本吉親子組が期待通り好スタートを見せ、軽風での日本人の速さをアピールした。翌日の本戦1日目は、前線通過に伴い強風が予想される中、レースが強行された。しかし風は更にあがり沈艇が続出、デスマストやハル破損など艇体に重大なダメージを受けた船が数多く見られ、レースはスタートしたもののノーレースとなった。初日からイギリスの海で手荒い洗礼を受けてしまうことになったが、本場イギリスだけあって、レスキュー体制はハード面・ソフト面ともにぬかりなく、全艇無事に帰着した。
続く2日目には、一転して軽風コンディションとなり、強烈な潮の中、完璧な読みで潮を味方につけ、難しい海面をセンスあるレース展開で走りきった本吉艇と田中艇が、ワンツーフィニッシュを見せ、日本選手団は大いに沸き立った。
翌3日目は順風から時に強めのガストが入るややきついいコンディションとなり、トップ艇が2時間程で終える位のコース設定で3レースがおこなわれ、軽量チームが多く、またオーストラリア勢などに比べ、強風域での練習量が圧倒的に不足している日本人にとっては厳しい一日となった。その後も、超微風から軽風、順風まで様々なコンディションの中、地元クラブの運営によって予定通りの日程で全8レースが消化された。

日本のエース本吉親子組、大健闘
今回のレースエリアはテムズ川の河口に位置し、ドーバーの海流と相まって複雑な潮流を生み出す地形と、5m以上の干満差がある難しい海面だった。その中で、どの風域においても安定した走りで前評判どおり圧倒的な強さを見せたシアトルヨットクラブのキャロルバッカン/カールバッカン組が優勝を決めた。彼らは学生時代から長年ペアを組む傍ら、今回女性ヘルムスマンとしてタイトルを手に入れたキャロルはアメリカのキールボート界で活躍し、豊富な優勝経験を持つ猛者、一方クルーのカールもスターやFDでのワールドタイトル、オリンピック金メダルを始めとし、チームデニスコナーの一員として88年アメリカズカップ防衛まで、様々なステージで実績を持つエリートセーラーだった。
また、2位以下も残り1レースの時点で僅差で並んでいて、最終レースはライバル艇をマークしながらの緊迫したハイレベルなレース展開となった。日本人選手は、本吉親子組(葉山)が熾烈な上位争いの末4位入賞し、16位の金子夫妻組(稲毛)、20位のナイト夫妻組(郡山・現イギリス在住)と続き、浜名湖の世界選手権以来、顕著な成長を遂げている日本のテーザーセーラーの存在を十分にアピールした。

レースは真剣勝負、アフターレースはフレンドリーに
このように、レースは世界のトップランカーにも十分満足できる水準でおこなわれたが、もちろん、全てがそのようなバリバリレーサーなんかじゃない。新婚旅行や家族旅行を兼ねて、この世界選手権に参加しているほのぼのチームや熟年チームもいて、強豪選手に混ざりレースを楽しんでいる。どんなチームでも何レースかするうちに、全体の中で自分たちのチームのいるポジションや競うチームの顔ぶれが何となく決まってきて、ライバル同士は顔見知りになってくる。後ろの方は後ろの方で、熱き?戦いが繰り広げられるのである。熱〜いレースが終わるとすぐに、ハーバー内のテントにシャンパンとドーナツが用意され、速い人も遅い人も一緒になって潮でガビガビのほっぺたをほころばせながら、今日はああだった、こうだった、とレース談義に花が咲く。その続きは、毎晩地元クラブにより工夫を凝らしておこなわれるパーティーで延々と続く。これを繰り返しているうちに、いつのまにか参加者みんなが顔見知りとなり、世界中にテーザーフレンドができてしまうという素敵なおまけつきだ。
参加者は年齢もバックグラウンドもセーリングのスタイルも非常に多岐に及ぶが、クラスの発展や向上を何よりも祈っているオープンマインドなセーラーが集まっていて、共通なコミュニティを持つ仲間として世界各国の交流も盛んなフレンドリーなクラスである。今回のレースは100艇のビッグフリートとなったが、予選でクラス分けすることなしに、全艇一斉のスタートであるのも実にワクワクさせられる。そして全ての参加者が気後れすることなくスポーツとしてのディンギーレースを存分に楽しめる雰囲気が用意されている。予選で勝ち抜いてきたという厳しさが無い分、誰もが平等にレースを楽しむ権利を持っていることを、参加者全員が心得ているからだ。また、レースは真剣勝負、アフターレースは思いきりフレンドリーに、というスタイルはもはやテーザーセーラーの世界共通認識になっている。

地元クラブによる手作りの世界選手権
今回のホストクラブとなったウィツタブルヨットクラブはイギリス南東部の小さな港町にある。ヨットクラブの雰囲気は非常にアットホームで、世界各国から集まる選手達のために、手作りの世界選手権を成功させようと、メンバーは家族総出でボランティアに徹していた。出艇時には、おそろいのTシャツを着て張り切る地元の子供たちが、次々と出ていく選手達のためにトロリー(船台)を片付けようと駆け寄ってきて、笑顔で送り出してくれた。また、ヘトヘトになって帰着すると、先に片付けを終えた選手や地元の人がどこからともなく集まってきて、一緒に船を押して浜まで運ぶのを手伝う光景も見られた。
最終日の表彰式では、勝者をたたえるのはもちろんのこと、その他にも、ジュニアチャンピオン、女性クルーチャンピオン、最年少・最年長の参加者などへ、様々な賞が用意されていて、参加者全員でこれらを暖かく祝った。最後に、次回のワールドの開催地も発表され、皆そこでまた会おうと約束してそれぞれの思い出を胸に帰路についた。

 国際レースは数あれど、アマチュアのディンギーセーラーにとって、それなりのレベルの国際レースに出場するチャンスは決して多いとは言えない。その点、テーザー世界選手権には、ディンギーレースには珍しいお祭りレース的な要素と、世界の強豪相手に腕試しをする晴れ舞台という二つの要素をバランスよく合せ持つ魅力的なイベントである。その裏にある心暖まるホスピタリティも参加者の心を引き付けている大きな要因でもある。
次回のテーザー世界選手権はカナダのビクトリアで2003年の夏に開催される予定。関西・関東を中心に活発なフリート活動をしている日本のテーザーセーラーたちは2年後の世界選手権に向け活動を開始している。

大会全体のウェブサイトは
http://www.tasar2001.com/

レースリザルトは
http://www.nick.tatt.hemscott.net/tasar2001/results.html



日本から参加した選手とその応援団
10チームの参加は、地元イギリス、オーストラリアに続き3番目のエントリー数


「世界の頂点が見えました」強豪相手に4位入賞を果たした本吉親子組(葉山)
17歳の夏樹君は29erでも活躍中。今回もジュニアチャンピオンのタイトルを獲得。


豊富な世界選手権遠征経験を持つベテラン金子夫妻組(稲毛)
「自己最高位の16位を取ることができました。日本人は軽風では外国チームと対等に戦えるレベルにあると思います。」


現地でボートをチャーターして参加した久礼/金子組(葉山・ソニーセーリングクラブ)
「初めてのワールド参加でしたが、とても楽しい遠征でした!」