● レース情報 / Race Informations 

ルイヴィトンカップ 2003決勝レポート


斎藤 愛子氏のレポートです

大会全体のウェブサイトは:
http://www.louisvuittoncup.yahoo.com/
をご覧ください。


Index ルイヴィトンカップ 2003決勝 これまでの流れ
ルイヴィトンカップ決勝
1月11日 これまでの流れ

突然ですが、JSAFウェブサイトにもルイヴィトンカップのレポートをお送りします。 ルイヴィトンカップはアメリカスカップに挑戦する艇を選ぶレースで、昨年10月から 予選レースが始まり、9チーム出場していた挑戦艇の中から、最後の2艇に絞られたと ころです。この決勝に進出したのはスイスのアリンギチャレンジとアメリカ(カリフ ォルニア)のオラクルです。

アリンギはスイスといいながらも、実際には国際色豊かなシンジケートで、スキ ッパーのラッセル・クーツは1995年にニュージーランドがアメリカからカップを奪取 した時と、前回2000年にそれを防衛したチーム・ニュージーランドのスキッパーでした。 今回はスイスチャレンジに7−8名のメンバーを旧・チームニュージーランドから連 れていきました。アリンギのチーフデザイナーのフロイクも実はオランダ人ですし、 デザインコーディネーターのグラント・シマーはオーストラリア人。造船所こそスイ スのデシジョンSAですが、スイスが勝ったあかつきにはアメリカスカップを地中海の フランス(たぶん、イエールになると思いますが)で行うと考えてられています。ル イヴィトンカップ予選をトップで通過し、準決勝もオラクルを4−0でくだし、本命 のチームです。

対するオラクルは「オラクル」というコンピューター会社を率いるラリー・エリ ソンがオーナーの「さよなら」というマキシヨットを中心にチャレンジしてきまし た。スキッパーはクリス・ディクソンで、実際にヘルムスをとるのはアメリカ人の ピーター・ホルムバーグ(ソウル五輪でフィンの銀メダリスト)です。ディクソン は予選前半はチームから外れていたのですが、途中でオラクルが負けはじめると呼 び戻され、その後はアリンギに4連敗するまで無傷の連勝を続けていきました。ア リンギには対戦成績で負けていますが、ここ1ヶ月の間に改良を重ねてきて、現在 のチームはアリンギに4連敗した時のチームとは違うと、自信を持っています。

このガチンコ勝負を制したほうが2月15日からチームニュージーランドと対戦し ますが、ルイヴィトンカップの決勝に先駆けて、1月7日に艇の公開がありました。 ルールでは6日までに決勝で使う艇を申請し、決勝が終わるまで公開したものは変 更をすることができません。また、挑戦艇はルイヴィトンの決勝で使用した艇をア メリカスカップでも使わなければなりません。(ただし、ハルにすれば50%の変 更が認められていますから、大改造はできるわけです。)キール公開については http://www.marine.co.jp/aiko/index.html で写真入りでレポートしてありますので、ご覧ください。

ルイヴィトンカップ決勝は1月11日から始まる予定でしたが、初日は強風 のために中止となり、12日が初日となります。準決勝までは先に4勝したほうが勝ち でしたが、決勝は咲きに5勝したほうが勝ちとなります。ラッセル・クーツもクリス・ ディクソンもニュー時ランドを代表するセーラーですから、何だかニュージーランド人 同士での争いにも見えますが、勝ったほうがカップに挑戦できるわけで、カップをニュー ジーランドからスイスかアメリカへ持ち帰ることができるわけです。12日のレースからレ ポートを始めますので、ご期待ください。



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オラクルのキールバルブ アリンギのヘッド
ベルタレーリ氏とラッセルクーツ氏


このレポートは下記のサイトに写真とともに掲載する予定です。
http://www.marine.co.jp/aiko/index.html



Index ルイヴィトンカップ 2003決勝 1月12日 第1レース
ルイヴィトンカップ決勝
1月12日  第1レースはアリンギが1分24秒差で1勝目

北東の風が10-15ノット吹く中、アリンギ対オラクルの初戦は数多くの観覧艇が見守る中、 13時15分にスタートしました。スタートはオラクルがスターボード側からエントリーし、 ライン中央でダイアルアップ(風位を向いて両艇が牽制しあう)の後、スタート本部艇を はさんでの攻防がありましたが、左エンド有利のスタートラインの左エンド側を確保した のはオラクルでした。その右となりから出たアリンギは仕方なくタックして逃げていきま したが、その後右海面から入ってきたやや強めの風をつかみ、もう一度タックして、左か らかえしてきたオラクルとミートになりました。オラクルは前を通過して右側へ行きたか ったのですが、アリンギがスピードをつけて走り、オラクルは前を通り抜けられず、下で 受けました。この後、右へシフトする風をうまく利用して右側にいたアリンギがオラクル の上突破に成功し、第1マークは47秒差でアリンギが先行しました。

第2レグでは先行するアリンギよりも後続のオラクルのほうが最初は角度を落として走れ ていたのですが、中盤で風が左へシフトし始めた時、先行するアリンギはすかさずジャイ ブしてマークへ向けたのですが、オラクルはその内側ではなく、アリンギの後ろをかわし て更に走り続けてしまいました。直後に左からもっと強い風が入り、アリンギは第2マー クでリードを1分23秒にひろげました。オラクルにとってはこのミスが致命傷となりました 。続く第3、4、5、6レグでアリンギは正確な位置取りを続け、シフティーな風の中で オラクルを手堅くカバーし、1分24秒差で初戦白星を飾りました。

予選準決勝でオラクルをストレートに破ったアリンギですから、下馬評ではアリンギが今 回も勝つだろうといわれています。今日のレースではシフトをつかめたかどうかが鍵です が、2度の大きな変化を的確につかんだアリンギには精密機械ばりの緻密な走りが武器で す。アリンギのタクティシャンであるブラッド・バタワースは「スタートではアフター ガードのヨハン・シューマンが左から出ろと指示していたので、左サイドをとりたかった のだけど、オラクルにとられてしまった。風下で頭を出される前に、被害を最小限にくい とめようとタックして逃げたら、右側からいい風が入ってきた。ふりかえれば、ラッキー タックだったが、それでレースの主導権がとれたのだから、結果オーライだ。」

ルイヴィトンカップ決勝は先に5勝したほうが勝ちますが、最大9レースを予定しています。 明日は第2戦を予定。14日はレイデーで、15日に第3戦を予定しています。勝者は2月15 日からのアメリカスカップ本戦でチームニュージーランドと対戦する権利を獲得します。 10月から始まった予選レースの最後の戦いとなり、オークランドの街は勝者の行方を 静かに見守っている状況です。明日は北北東の風11-15ノットが予定されています。オラ クルはスイス時計のように精密なアリンギに対してミスひとつも許されません。完璧な スタート、レース展開、100%艇の性能を引き出した時にやっとアリンギを破ること ができるのでしょうか。

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スタートボックスにエントリーしていく
オラクル(手前)とアリンギ(向こう側)


Index ルイヴィトンカップ 2003決勝 1月13日 第2レース
ルイヴィトンカップ決勝
1月13日  アリンギが2勝目(40秒差)

今日のオークランドは小雨まじりの天気で、北東の風が11-15ノットというコンディ ションでレースが行われました。今日もスタートからオラクルが活発に動きましたが、 ダイアルアップとサークリング1回をへて、アリンギが左、オラクルが右側からイ ーブンのスタートでした。

1上マークまでにアリンギがオラクルよりも先行し、前で押さえるタックを繰り返 していきましたが、オラクルは途中から被害を最小限度のとどめる作戦に出て、カ バーされる位置をおとしてさけるように風下へ位置取りしました。ここで損した分 が1上マークの4艇身差(26秒)となりました。

ダウンウィンドになると俄然スピードアップするのがオラクルですが、アリンギよ りも角度をおとして走る分、少しづつ距離をつめていきました。1下マークでは2 艇身差くらいまで追い上げたのですが、マーク回航動作に入ったところでスピン ポールのトッピングリフトのジャマーが外れてしまい、ポールが落下してデッキ にあたり、折れてしまいました。それといっしょにスピンが水没し、あみ引きに なってしまいましたが、回航してクローズに入ったところでスピンをカットし、 折れたポールは2上マークまでの間に艇内で当て物をして修理しました。修理キ ットを持っているあたりがアメリカスカップクラスらしいです。オラクルでは何 度か折ったことがあるため、準備はできていたのでしょう。

しかし、19秒差がこのトラブルの間に1分近くに開いてしまった後は、ダウンウィ ンドでいくら追い上げてもアップウィンドで少し離されてしまい、フィニッシュま でアリンギは確実に抜かれないポジションをキープして2勝目をあげました。

明日は予備日で休みになりますが、オラクルもアリンギもルールで計測をした道具 を改造してはならないので、セッティングとチューニングを研究する1日になりま す。アリンギは軽風用のマストセッティングを調整する予定です。

次のレースは15日ですが、アリンギはすべりでも、ハンドリングでもオラクルを上 回り、完璧に近いレース展開をしています。オラクルは今日もポール破損というミ スをおかし、取り返しがつきませんでした。オラクルはダウンウィンドが速いので 、1上マークを先行することが必要ですが、完璧なスタートと最初のシフトから 有利に展開しないと手堅いアリンギを破る道はなくなります。シフティーな風が予 報されているあさってからのレースに望みをつなぐオラクルと、一気に勝負を決め て、1日でも多くアメリカスカップのための準備に使いたいアリンギとでは、勢いの 差がでてくるのでしょうか。明日の調整をへて、オラクルがひらめかないと、アリン ギの5連勝になりそうな流れです。

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上マーク廻航


Index ルイヴィトンカップ 2003決勝 1月15日 第3レース
ルイヴィトンカップファイナル
1月15日 第3戦 アリンギが1分1秒差で勝ち

3戦目は最初から最後まで手に汗にぎる接線になりました。スタートのエントリー でポートから入ったアリンギがおとしてスターボードエントリーのオラクルの前を 横切り、ずっとポートストレッチでのばしてからジャイブしてスタートラインへ戻 ってくるという単純なプレスタートでしたが、オラクルは左側から出るプランをた て、アリンギはエントリー前のプランは左でしたが、途中で風が12度右にシフト したため、右側から出ることを選びました。アリンギはジャストスタートで、オラ クルが1秒出遅れたイーブンスタートでした。

1レグは17回のタッキングマッチになりましたが、今日はオークランドの典型的 なシーブリーズ(北風)で、1戦、2戦目よりも波がなく、オラクルはタックして もアリンギにひけをとりません。上マークは1艇身差があるかないかという接戦に なりました。1下までのランではオラクルがアリンギをポートレイラインまで追い 詰めようとしたのですが、アリンギのダミージャイブ(にせジャイブ)にだまされ、 カバーをはずされてしまい、1下マークはアリンギが13秒先行して回航しました。

2上マークまではタックの少ないレグになりましたが、後半でアリンギがシフト に素直に右サイドへのばした時にオラクルはひたすら左サイドへ突っ込み、角度は よくなくてもより強い風の中を走ることに成功しました。マークへのアプローチは オーバーセールになりましたが、それでもアリンギに12秒さと肉迫します。

そして、問題の2下マークまでのダウンウィンドのレグに入りました。オラクルの 艇上では、ダミージャイブにひっかからないようにしようと事前に対応を話しあう 声が聞こえますが、オラクルはアリンギよりもややおとしぎみに走れるため、1回 のジャイブで押さえる位置を確保しつつありました。今度はアリンギは先手を打っ てジャイブしましたが、オラクルもついてジャイブし、先にスピンがはらんだとい うよりも、つぶさずにジャイブしたオラクルが風上突破で追い越しにかかりました。 アリンギはそうはさせまいとラフィングして攻撃しましたが、結局風上突破され、 先行したオラクルとの間に何度もY旗があがる接戦が続きました。このやりとりの間 は全部がグリーンフラッグでペナルティーはありませんでしたが、2艇がジャイブ した後に問題のラフィングが起りました。ジャイブしてポートタックになった後、 クリアスターンからオーバーラップしたオラクルが風上艇のアリンギに対してラフ ィングをし、接触があったのですが、両方からY旗があがったこのケースでは風下 のオラクルがペナルティーを受けました。風上艇が避けるために必要なルームと時 間をあたえていなかったという判断です。その後、一度はアリンギが先行しました が、じっくりおとしぎみのコースどりでオラクルはマーク手前でオーバーラップし 、内側のルームを取りました。決勝が始まってから初めてオラクルが先行して下マ ークを回ると、オラクルはクローズホールドでもずっと左サイドをキープし、3上 マークでは29秒差に開きました。ここでペナルティーターンを解除することもで きたかもしれませんが、オラクルはダウンウィンドが速いので、フィニッシュ前ま でにもう少しリードを広げ、フィニッシュで解消するタックをしようと判断しました。

つきがあるのはアリンギかもしれません。3上マークを回ったコースの途中から風 が弱くなり始め、先行するオラクルとの距離をつめます。オラクルは途中でスロー ダウンしてアリンギをひっかけにいき、相手にペナルティーをつけて、自分のペナ ルティーをちゃらにしようという作戦も考えましたが、アリンギはそれを警戒しな がら、適当な距離をおいてオラクルについていきます。ペナルティーターンを上マ ークの手前で解消しておけば良かったと思っても、もう後のまつりで、オラクル はフィニッシュ前に必死のボートハンドリングで、ジェノアをあげ、スピンを下ろ す体制に入ると、ディクソンの掛け声と同時にスピンダウン,上ってのタッキング 動作、メンセールをだしてのベア。その間、観覧艇の目はスピンを張って、フィニ ッシュラインめがけて直進するアリンギに集まり、オラクルの回転するバウがライ ンに入るのが速いか、アリンギが速いかを見つめていました。一瞬、同着かと思え るほど、オラクルのバウはシャープにラインへ突き刺さりましたが、同時にアンパ イアボートにはオラクルがフィニッシュマークにタッチしたためにもう一度ペナル ティーという黄色の旗(スターボードエントリーの色)があがりました。2度目の ペナルティーターンを終えてフィニッシュしたオラクルは1分1秒差で、3敗目に なりました。

それにしても、今日のオラクルは生まれ変わったように元気でした。スタートから フィニッシュまで舵を持ったのはピーター・ホルムバーグで、スキッパーのクリス ・ディクソンはタクティクスをコールしながら、艇全体に大声で情報と指令を出し ていました。オラクルではアフターガードのトマソ・キーフィー、エリック・ドイ ル、ナビゲーターのイアン・バーンズが情報を出し合いながら作戦を進めていくわ けですが、ディクソンが舵を持っている時よりも、ディクソン自身が周囲をみなが ら作戦に参加している時のほうが決断が早く、それがマッチレースの展開を早くし ている要因になりました。特にランでレイラインと相手の動きを先手をとって封じ ていく攻め方やアリンギを上回るジャイブのボートハンドリングには正直いって驚 きました。ペナルティーを受けたラフィングが致命傷になりましたが、ケースの後 にアリンギの艇上では「オラクルがじっと我慢してマークへ向かって走っていたと しても、同じように内側をとられただろう」、と、あの場面で無茶しなかったら結 果は変わっていただろうと判断していました。

オラクルは得意な風域になれば速いということがわかりました。そして、1日の休 みの間にクルーワークとチームワークを整理整頓した結果、このまま負けるわけに はいかないという意地を見せてくれました。アリンギの3勝、オラクルの0勝には かわりありませんが、明日も午後からのシーブリーズが予報されており、今日と同 じパターンになると、勝負はまだ、わからなくなりそうです。

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手に汗にぎる大接戦。興奮しました。
オラクルが強く見え、攻める動きに
歓声が あがりました

問題のラフィングはこの直後におこりました。
ペナルティーは残念でしたが、
オ ンボード・オブザーバーは
クリアすターンからのオーバーラップ
だったことを正確に 伝えていました。


Index ルイヴィトンカップ 2003決勝 1月16日 第4レース
ルイヴィトンカップ決勝
幸運をよびこんだ最悪なジャイブ − オラクルが2分13秒差で初勝利!

今日のハウラキ湾はレース開始時間の1時15分には風が弱く、南からの海風が 入ってきた2時過ぎまでレースのスタートが延期されました。昨日は北風が海風 で、今日は南と、わけがわからないかもしれませんが、オークランドはニュージ ーランドの北島の一番細い部分になり、タスマン海と陸地、北側の南太平洋と陸 地の両方から海風が入る地形で、今日はタスマン海からの風が勝ち、190度の 風が10ノット弱のコンディションで3時20分にスタートしました。

スタートは相変わらずドラマの少ない平和なプレスタートで、ダイアルアップの 後にオラクルがポートでスターボードのアリンギの前を通過した時に唯一Y旗が アリンギからあがりましたが、これはグリーンフラッグで、その後は両艇とも アプローチ体制に入り、オラクルが左側、アリンギが右からでました。スター ト後はアリンギがタックして逃げ、すぐに右からの強めの風に合わせてスター ボードタックに戻しました。左がいいと思っていたオラクルにとっては、ラッ キー・リフトでした。そこから暫くリフトを走ることになり、風下側で苦しい オラクルは次に左へシフトが戻るまでずっと我慢して走り、何とか差がつかな いようにしました。1上マークはアリンギが38秒先行で回航しました。

アリンギはその後、ジェネカーに加えてステイスルもあげ、ジェネカーだけの オラクルとジャイブマッチをする気配がありませんでした。オラクルはジェネ カーだけの間にジャイブし、反対タックになってからステイスルを準備し、も う一度ジャイブしていこうとしたのですが、シートの取りまわしでミスがあり 、ジャイブしかけた時にジェネカーがワイングラスになりました。そのままジ ャイブしてしまったら、最悪な事態に陥るため、すかさず元のコースに戻した のは良かったのですが、それからシートをつけかえるまでの2分半、レイライ ンを超えてしまいました。

しかし、この2分半のポートストレッチがオラクルにくれたものは、「風」と いう幸運でした。準備が整い、ジャイブした時にはレイラインを超えていたの ですが、アリンギは先にラルにつかまりスピードが落ち、オラクルもマーク手 前でラルに入るものの、あのミスジャイブのおかげで、かなりマークに近いと ころまでいってからラルになり、オーバーセールのおかげで余計な距離を走り ましたが、ずっと風があり、なくなった時に角度をつけてスピードをつけて、 マークへバウを向けることができました。アーリーポートでジェネカーを回収 し、ジャイブラウンドで1下マークを回航するオラクルに、観覧艇からホーン がなり響き、声援がとびかいました。

オラクルが勝利を決定づけたのは、次のレグです。シフトも強弱も多い海面で 、右奥の岸よりへ風を拾いにいく両艇はスターボードレイラインを超えるまで タックをしなかったため、オラクルのタイトカバーにあったアリンギは2回の 余計なタックと1分余計にポートタックを走るはめになりました。そのロスが 2上マークで本来ならアップウィンドで有利なアリンギに追い上げられずにす み、そのマージンをダウンウィンドでアリンギよりも僅かに角度をおとして走 れるスピードの利点を生かして、位置取りとブローを上手に使ってリードを広 げました。風はスタートから50-60度変化し、マークも2下マークまで打 ち変えばかりでした。そんなコンディションですから、一度リードを奪ったら 有利ですが、オラクルは昨日からタクティシャンになってボート上で指示をと ばしているディクソンが弱い風の中で、確実に風をとらえて、やっと得たチャ ンスを絶対に渡さない確実なレース展開を見せてくれました。そして、最悪な ジャイブを見せたクルーワークは3上マークで完璧なスピンアップを見せるま でになり、このレースを通してオラクルは自信をつけたようです。最後まで緊 張した面持ちのディクソンが笑ったのはフィニッシュまで後残り6分の時でし たが、それでもフィニッシュラインを横切るまでは1ポイントがもらえません から、ミスないように眼を光らせていました。オラクルがアリンギよりも2分 13秒先にフィニッシュした時、オークランドの海はまるでオラクルがルイヴ ィトンカップに勝ったかのような騒ぎになりました。オラクルが勝ってうれし いのか、アリンギが敗れてうれしいのか。それでも、何故か海上に出ていた観 覧艇の多くをハッピーにしてくれる1勝でした。オラクルの応援団が乗ってい るボートには「Our victory starts today(我々の勝利は今日始まる)」と、 書かれたプラカードが見られましたが、本当に今日から5連勝して逆転できる のか − 明日のレースで勝つことになればそれもあるのかもしれませんが、 今から4勝しないとならないオラクルと2勝のアリンギというアリンギ優勢に 変わりはありません。

アリンギの今日のミスは第2レグでオラクルがジャイブして岸に向かった時に ついていかなかかったことと、第3レグでスターボードレイラインを超えるま で岸へ突っ込んでしまったことです。タクティシャンのバタワースは「1下マ ークは正面に見えていたから、ジャイブする必要はないと思った。オラクルが レイラインを超えていって、風が残っていたのだから、本当なら追いかけてジ ャイブしておくべきだっただろう。軽風のレースでは先行艇のほうが風を先に ひろってリードを広げるから、負けるほうは大負けすることが多い。時間さは 気にしていない。ダウンウィンドはオラクルのほうが少し良いスピードかもし れないが・・・致命傷は2上でスターボードレイラインの先まで連れていかれ たことだろう。もっと手前で何か手を打つべきだった。」といいます。対する オラクルはディクソンがタクティシャンになり、ホルムバーグが舵を持つコン ビネーションが良いのもありますが、波がないことがボートを走らせやすいか らスピードがあるという現状です。2艇の差は思ったほどありませんし、互い に有利な条件が異なります。どうやら、鍵を握っているのは「波」のようです 。あれば、アリンギ、なければオラクル。これがACボートの性能の戦いなので しょうか。しかし、多くの人が喜んだといっても、たかが1勝にかわりはあり ません。本命アリンギが底力を出して一気に逃げ切る可能性も高く、ルイヴィ トンカップは決勝にふさわしい見ごたえある対戦がまだまだ続きます。

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下までの間に凄い逆転を見せたオラクル。


Index ルイヴィトンカップ 2003決勝 1月17日 第5レース
ルイヴィトンカップ決勝
1月17日 「あとひとつ!」アリンギが13秒差で4勝目

13時30分にスタートしたレースは11-14ノット、フラットな海面ということでオラク ルが昨日に続いて活躍してくれそうなコンディションでしたが、アメリカスカップへの 挑戦に艇の改造時間が必要なアリンギとしては、もう1つも落としたくない気持ちでした。

スタートからずっと接戦で、第1マークこそオラクルのUSA76が先行しましたが、第2マーク でスーパーラウンディングを見せたアリンギはそこからタッキングマッチですべり勝ち、逆転 に成功。ランでは500メートルも相手と離れる場面がありながら、今日はアリンギのダウン ウィンドのスピードがよく、角度をつけて風をとりながらディクソン率いるUSA76を寄せ付け ません。最後まではらはらしたものの、アリンギが13秒差(2艇身ないくらい)で、アリ ンギが4勝目をあげました。

チームニュージーランドが95年にルイヴィトンカップのファイナルでワンオーストラリア と対戦したときも同じ状況になりました。「ワン・モア」という言葉が、あと1勝でルイヴ ィトンカップの勝者となるアリンギと、「明日、もう一度勝とう!」というオラクルでは、 モチベーションが違いすぎます。しかしながら、明日はレイデーで、最後のレースになるか もしれない1戦は19日、日曜日になります。オークランドの海に決勝を見る観覧艇が繰り 出すことになるのでしょう。

アリンギはスイスのチャレンジですから、朝の出艇時にアルプスホーンが「チャーラーラー 」となり、牛の首につけるカウベルが「シャンシャンシャンシャン」と鳴る中を静かに出て 行きます。オラクルBMWチャレンジはアメリカですから、Fat Boys Slim の「Right Here, Right Now」をバックにチアリーダー風の声援を受けながら出艇します。バイアダクトハー バーは、いよいよアメリカスカップの挑戦艇を選ぶ大詰めにきました。そして、王手をかけ ているのがチーム・ニュージーランドを去って、スイスのシンジケートの中心となるラッセ ル・クーツです。これ以上、ドラマチックな台本があるんでしょうか。

ルイヴィトンカップの第6戦は19日の13時15分スタートです。

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アルプスホーンがオークランドに鳴り響きます。
後ろにオークランドタワーがそび えます。


Index ルイヴィトンカップ 2003決勝 1月19日 第6レース
ルイヴィトンカップ決勝
1月19日 アリンギが挑戦艇に決定!

スタート予定時刻の13時15分から遅れること2時間、15時05分に最終戦となった第 6レースがスタートしました。クリスディクソン率いるUSA76(オラクルBMWレーシング)は 崖淵に立たされて後がないせいか、プレスタートから緊張していました。対するアリンギは もう負ける気がしないせいか、勢いよくスタートラインにエントリーしていきました。

プレスタートではダイアルアップから離れたUSA76がポートストレッチからジャイブしようと した時にアリンギとの間に十分にルームがなかったのにジャイブしたとアリンギからプロテ ストをされ、審判艇にはUSA76がペナルティーという判定がだされました。スタート前から ハンデをしょいこみ、ディクソンはピンチです。

軽風はオラクル有利ですから、走りとしてはアリンギを少しづつ引き離し、何とか先行する のですが、2上マークへ行く時に150メートルあったリードをマーク手前でカバーせずに 離れた時にUSA76は風のないところに入ってしまいました。アリンギが逆転し、ディクソンは また追う立場になってしまいました。普通だったら、ここであきらめてしまうところでしょ うが、そこはディクソンで、ダウンウィンドで必死に抜き、先行します。それでもペナルテ ィーターンをするだけの余裕がないと判断すると、フィニッシュ前にはアリンギをひっかけ にいき、何とかペナルティーをアリンギにもつけて、自分の分をご破算にさせようと試みます。

しかし、そんな手口もアリンギには通用せず、アリンギが2分34秒差でUSA76(オラクル BMWレーシング)を下し、ルイヴィトンカップの勝者となりました。これでアメリカスカッ プへの挑戦権利を手に入れたわけで、2月15日からカップ本戦が始まります。

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ルイヴィトンカップを制したアリンギ


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