● レース情報 / Race Informations 

ISAF SAILING WORLD GAMES 報告

アテネオリンピック特別委員会
小松一憲


3回目を迎えたISAFワールドゲーム

4年ごとに開催され、第3回大会となる今大会には参加国総数67カ国、選手約600名 が参加した。ISAFは、このイベントをオリンピックに次ぐ大会として位置づけようとしている。 競技に使用される全てのボートは主催者が用意し、それらは全てニューボートのニューセール 付きである。艇種やレースのシステムなど大会ごとにISAFは試行錯誤し、参加する選手にとっ て、お金のかからない公平なヨットのイベントとして確立させようと努力をしている。しかし 、その意に反してセーリング界におけるこのイベントのステータスは、現時点で高いとは言いがたい。
その原因の一つに艇種の問題が考えられる。オリンピッククラスである470級、レーザー級 (男子)には有力な国(選手)が出揃った。しかしマルチハルのホビーキャット級、セールボ ードのホォーミラー級、キールボートのJ-80(男子)とJ -22(女子)には世界のトップ 選手がちらほら、あるいは全く参加していない。
この大会がセーリング界におけるトップレベルのイベントとして認知されるにはまだ多くの問 題解決と工夫が必要であろう。
過去3回の大会のうち2回がフランスで開催されている。大会開催に必要な費用のかなりの部 分が地元スポンサーによって支えられ、使用するボートの大半の売り先が大会終了前に決まっ ているというフランスヨット界の懐の深さに脱帽する。

セーリングテクニックとレーシングテクニックのコンテスト

チャーターボートで実施されるマッチレースはセーリングテクニックとレーシングテクニック で競われるが、この大会はそのフリートレース版という表現で説明することができる。ボート の選択とチューンナップが選手には許されていない。チューンナップという点で470級が僅 かにマストステップ、スプレッダーアングル、マストレーキの調節をゆるされているにすぎな い。ボートはレースごとに抽選するのだが新艇ながら僅かに存在するボートの仕上がり具合の 差、修理や交換をボート受け取りの時点で依頼することができるのだが、前レースに使用した 選手の不手際(沈、衝突)で生じた破損箇所の多いボートを引き当ててしまったというアンラ ッキーだけは確かに存在した。しかしそれを口に出すことはその選手の評価を下げるだけのこ とにしかならない。それだけこの大会は3回目の開催で公平ということに関して良く考えられ 、対策が講じられていた。

成績

第1回大会で山田寛選手が470級で2位という輝かしい成績をあげている。今回の成績は実 力通り、結果は正直に現時点での選手の力を表現していると受けとめるべきである。それぞれ の戦いの過程で、あの時の沈が、720度が、リコールが、スピントラブルが無ければ、風が 安定していたら、強かったら、弱かったらと言う言葉を用いて、戦いを報告すれば話としては 面白くなるだろう。しかし成績はどの選手にも公平に吹いた風の中で公平という点では大変な 気の使われ方をした大会の結果である。今大会、日本選手の最高成績は、J-80クラスの畠山 ・中澤・相澤・久米のチームの7位であった。後半の素晴らしい追い上げでこの成績を取った 。日頃活動している日本のJ-24クラスのレベルの高さと日本国内に一艇あるJ-80でおこな った事前練習の努力が彼らの成績のバックボーンとなったのだろう。また私が感じたこのチー ムの特徴は、それを強さと言い換えても良いが海外でも、あるいはどこに出て行っても凹んで しまうようなことの無い全員の明るさ(にこやかさ)にあった。
オリンピッククラスの日本のナショナルチームの成績は、470級男子・関・轟組の9位(2 2ヶ国中、国別7位)、470級女子・吉迫・佐竹組14位(22ヶ国中、14位)、レーザ ー級・鈴木40位(45ヶ国中、国別25位)、このほかにヨーロッパ級の佐藤選手らがレー ザーラジアルに参加した。
470級男子の有力な国の中では、スエーデン・ポルトガル・ドイツが今回参加していなか ったが5月のISAFグレード1のイベントであるスパレガッタの成績(石橋・後藤組11位、 31ヶ国中10位)と比較しても日本の男子470の現在のレベルは国別10位まできている ことは確かである。
同じように比較すると女子もスパでは田畑・栗田組が22ヶ国中、国別10位であり、今回の 成績と照らし合わせても日本の女子の国際的なレベルは10〜14位に位置づけられる。 日本の男女470級の複数のチームが比較的高いレベルで同じような順位のところにいると いうのはたいへん頼もしい。切磋琢磨する土壌が整ったと言っても良い。女子の井嶋・生田 組を除く2チームは今年が470級の初遠征だった。ベテランには奮起をニューフェースに は積極的なチャレンジを期待したい。
レーザーを同じ方法で比較するとスパでの鈴木選手の成績が35ヶ国中、国別23位であり 今回の国別25位は特別かわった成績だったというわけではない。シドニーオリンピックの 成績も同じような順位だった。二回目となる次回のオリンピックに向け、一層の努力と奮起 に期待したい。目前に迫ったアジア大会を考えると強風にめっぽう強い470級の韓国、 レーザーには韓国とチャイナが日本の前に立ちはだかっている。アジア大会まであと2ヶ月、 各選手が予定している海外遠征のなかでヨットレースに勝つ為に必要なものをより確かな形 でつかんで来て欲しい。私は現在の日本ナショナルチームの選手の持つポテンシャルを信じ ている。選手達の持つそれは、今回の成績に甘んじるものではけしてない。 

微風から強風まで色々あったコンディション

マルセイユの湾を半分使って4つのレースエリアが作られた。使用された海面の左右の幅は おそらく10マイルあるいはそれ以上あったかもしれない。湾は東から南にかけて口を開い ているのでその方向から風が吹くとうねりを伴った1メートルほどの波がでる。また 北から西にかけてはマルセイユの市街と小高い山があり、長い歴史の中で多くの船乗り達を 魅了してきたその景観は、今も変わらずなかなかのものである。風は微風から強風、凪から 突風までいろいろあり、ヨットレースとしては運営にとっても選手にとってもテクニックを 色々試される難しいコンディションであった。

オリンピッククラス以外の種目に参加した日本選手達へのお詫び

今回、この試合に同行したもっとも大きな目的はフランスのオリンピック強化活動と強化拠点 に関する調査をすることであった。また日頃の立場が『アテネの海に日の丸を』をスローガン に活動していることもあって、今回参加したJ-22、J-80、ホビー、セールボードの選手達には コーチボートでのサポートもなくレース観戦も有ったりなかったりといった具合で、さぞ寂し い思いをしたことだろう。試合とは直接関係ないことかもしれないがオリンピック種目以外の 上記の種目に参加した日本選手は、押し並べて好感のもてる大人の集団であり日常の活躍をう かがい知ることができた。
調査のほうは期待していた以上に成果があった。その中で最も印象に残るフランスのオリンピ ック強化委員長の言葉を紹介し報告の結びとしたい。
「この20年間、フランスはオリンピックの成績に関する限り低迷を続けている。かえりみる にテクノロジーに重きを置き海に出る時間が少なくなった。テクノロジーに重きを置いたがた め体力強化を怠る傾向に有った。この点を反省し次回オリンピックでは3個の金メダルを目標 にする」。
この情報化の時代だからこそスポーツ選手に必要不可欠な泥臭い努力を怠ってはならないとい うことだろうか。