以下、JSAFの広報というわけではありません。ずっとジャパンカップを見てきた一人のジャーナリストとして、中止となった2009年のジャパンカップ、そして2010年度のジャパンカップへの展望を書いてみます。

2009/10/30 高槻和宏

どうなる、どうする
ジャパンカップ2010への展望

台風18号によるマリーナ被害のあおりを受けて中止となってしまった2009年のジャパンカップ。表面にはあまり現れなかったが、実際は3つの改革が行われていた。それらの改革が、はたしてどのように機能するのか。期待していただけに、泊地の問題だけで大会が中止になってしまったのは本当に残念だ。

さてそれでは、その“幻のジャパンカップ2009”ではどういう改革が行われたのか、いや、行われようとしていたのか。詳しくみてみよう。

★改革その1 「外洋レースの選手権である」 --------

改革の第1点は、ジャパンカップとはオフショアレースを中心としたシリーズレースであると明確に打ち出したこと。
具体的にいうと、155〜140マイルのロング・オフショア、55マイルのショート・オフショアがこのシリーズレースのメインイベントとなる。

ここ何年か、ジャパンカップにオフショアレースが必要なのか?という議論があった。議論があるということは、この時点でジャパンカップは外洋ヨットによるインショア・ブイ周りレースが中心となっていて、オフショアレースはオマケにすぎないという認識が少なからずあったと考えてもいいと思う。
それを、オフショアレース中心のイベントであると主催者であるJSAFが改めて定義した意味は大きい。

★改革その2 「期日を固定」 ----------------------

大会日程は、参加艇はもちろん他のイベントスケジュールを立てやすくするためにも、大きな選手権試合から先に決まっている必要がある。となると、外洋ヨットの日本一を決めるジャパンカップの日程こそが、真っ先に決まっていなければならないはずだ。

ところが実際には、開催場所と期日がなかなか決まらないことが多かった。

参加全艇を一ヶ所に海上係留しなければならないという選手権試合のフォーマットを適用させるとなると、適した泊地を確保するのがまず一苦労だ。
参加艇側の休みの都合からすれば春のゴールデンウイークや夏のお盆休みに開催したいところだが、その時期は各マリーナは繁忙期とあってそれどころではない。
秋は秋で、台風でスケジュールがめちゃくちゃになってしまったことが何度もある。参加艇、主催者、受け入れマリーナ、それぞれの都合を考えると、いつ、どこでやるのか? はそうそう簡単に決められない問題だった。

それを今年から、「毎年、11月3日の祝日を絡めた日程で行う」と明言された。これも大きな改革点となる。

★改革その3 「明確なクラス分け」 ----------------

3つ目の改革点は、実施要項で艇のサイズ(TCC)によって明確にクラス分けされたということ。

それがなんなの? と思われるかもしれないが、実際はここがかなり重要なポイントだと思われる。

ジャパンカップで用いられるハンディキャップシステムはIORからIMSに変わり、そして今IRCになろうとしている。この変化はそれぞれのハンディキャップシステムの普及度を元に、最終的には政治的な判断をもって下される。それはそれとして、問題はその中からエントリー条件に艇のサイズを入れるのか否か? ということだ。

サイズ規定を設けなければ、そのハンディキャップを取得することができるすべての艇を対象とした日本一決定戦ということになる。
規定を設ければ、それに合致したサイズの艇の中での日本一ということになる。

ジャパンカップとは何なのか? という根本的な定義がこれによって決まってくるといってもいい非常に重要なポイントだ。
しかし、この部分がこれまで極めて曖昧で、毎年その基準が異なっていた。昨年は優勝した艇が、今年はエントリーすらできない、ということになってしまう可能性もあった。

それが今年は実施要項で、BクラスはIRCのTCC1.000〜1.090、AクラスはTCC1.091〜1.376と明記された。
実施要項とは、そのレースを定義する重要な書面だ。ここで、エントリーの上限下限と共に、艇の大きさ(ハンディキャップ値)によって、A、B、2つのクラスを明確に分けて設定したということになる。

これは、エントリーを締め切った後で全参加艇を2つに分けるというクラス分けとは本質的に異なる。

どう違うのか?

Aクラス、Bクラス、という名称が付けれられているのでピンとこないかもしれないが、これを仮に、
TCC1.091〜1.376:ビッグボートクラス
TCC1.000〜1.090:ミドルボートクラス
とでも命名すれば、分かりやすいと思う。
勝負はあくまでもそのクラス内で行われる。
ビックボートの外洋レース日本一、ミドルボートの外洋レース日本一を決める大会、それがジャパンカップである。と、JSAFがハッキリ設定したということでもある。

★何故クラス分けが必要なのか? -------------------

ジャパンカップは、ハンディキャップ・システムで艇間の根本的な性能差を修正して順位をつけるヨットレースだ。

ところが、大型艇と小型艇の艇速差が大きくなるとハンディキャップでは補完できない“運”が介在してくる。
たとえば、大型艇がフィニッシュしたあと風が急に無くなってしまったら、後からフィニッシュする小型艇は圧倒的に不利だ。もちろん逆も有り得る。この運不運には、どんなによくできたハンディキャップ・システムでも対応できない。

そこで、クラス分けをすることでフィニッシュ時間の差を小さくし、絶対艇速の差による運不運の要素を薄めることができる。これが、ハンディキャップレースでクラス分けする一番の理由だ。

ところが、今のヨットはクラス分けを前提にして作られているわけではない。したがって、どこで線引きするかは非常に難しい問題となる。
上では、Aクラスをビックボート、Bクラスをミドルボートと勝手に命名して書いたが、実際には“ミドルボート”という呼称はすでに使われているので、ジャパンカップBクラスをミドルボートと呼ぶのは適当ではないかもしれない。

今年設定されたジャパンカップBクラスのレーティングバンドでは、下はSEAM31、YAMAHA33Sあたりから、X35、FIRST40.7あたりまでがBクラスとなる。一方、Aクラスの方はマム36から上、BC37CR、GP33等もAクラスに含まれる。最大はTP52だ。

ここでのBクラスの線引きは、いわゆる“ミドルボート”と呼ばれるクラス分けとは異なるが、圧倒的なスピードを誇るGP33等の新しい艇種の出現で、“ミドルボート”の定義も変えていかないとレースにならないのが実情だろう。
となると、今ここでJSAFがIRCのTCC1.000〜1.090というクラスを中型艇クラスであると定義した意義は大きい。それを“ミドルボート”と呼ぶかどうかは別として。

実際には、今回のジャパンカップではBクラスのエントリーが少なく、9月6日付けで「各クラス艇数調整のため適用レーティングバンドを変更する場合がある」と、実施要項が訂正された。
これだと、上記の理由で線引きした意味が無くなってしまう。選手権試合としてのクラス分けは、あくまでも明示されたものであることが望ましいのではなかろうか。

★ジャパンカップ2010に向けて ----------------

『JSAF運営規則』第2章、第4条では、外洋艇全日本選手権等のレースとして
ア、ジャパンカップ
イ、全日本ミドルボート選手権大会
をそれぞれ認定しており、ということは、ここでJSAFとして“ミドルボート”というクラスを認定していることになる。

今後は、「ジャパンカップ」でのクラス分けと「全日本ミドルボート選手権」でのそれと、整合性をもたせる必要が出てくるだろう。
つまり、ジャパンカップのBクラスが全日本ミドルボート選手権ということになるのか? あるいは、「全日本ミドルボート選手権」はインショアレースで、ジャパンカップは「全日本ミドルボート(オフショア)選手権」として住み分けるのか?

実際問題、小型の艇では関西〜関東への遠征はなかなか難しい。回航などを考えると、ジャパンカップのメインクラスはどうしてもAクラス(ビックボート)になってしまい、Bクラスは地域選手権という色合いが強くなってしまうのかもしれない。
そのあたりも含めて、どう折り合いをつけていくかが、今後への課題だろう。

上に挙げた3つのポイントは、アメリカズカップでいうところの『Deed of Gift』のようなもので、ジャパンカップというのは何なのか? 何に対する日本一の艇に与えられるカップなのか? という問いに対する答えとなる。
となると、それを「今後も継承する」としたことこそが大きな改革であると筆者の目には映った。

いずれも大変難しい問題で、全員が納得できる解決策はおそらく無いだろう。となると、主催者であるJSAF側で決めてしまわないとなかなか先には進めない。

今年度、JSAFの組織改編が行われ、これまでの外洋統括委員会に代えて「外洋艇推進グループ」が発足した。
これは、
○総務・広報グループ
○競技推進グループ
○普及推進グループ
○外洋艇推進グループ
というJSAF内に設けた4つの基本となるグループの内の一つとなる。
外洋本部とでもいうような位置づけを持ち、JSAF内の組織としては、一段格上げされた格好だ。

今年度より就任した植松眞JSAF副会長が「外洋艇推進グループ」のトップに立ち、上記3つの改革が進められたわけだが、最終的にはレース自体が中止になってしまったことで、その第一歩は踏み込めずに終わってしまったことになる。

2010年度のジャパンカップはすでに始まっている。今後は「競技推進グループ」の中にあるレース委員会との連携が大きな課題になるだろう。さらに外洋艇推進グループとしては、広くセーラーからの意見を求めたいという。
上記3点の改革をふまえて、活発な議論が広がっていくことが望まれる。


鼻息荒い競走馬 この後どうする?    2009/10/10

10月9日、早朝。開催ベースとなるシーボニアが、台風18号の襲来で大きな被害を受けました。
復旧には相当の時間がかかり、かといって代替え地の目処もたたず。本日早朝、実行委員会よりジャパンカップ2009の中止が決定したとの報が入りました。

ご承知のように、ジャパンカップでは、
「レース艇はレース期間中、レース委員会が指定した係留場所に艇を係留しなくてはならない」
となっています。
ジャパンカップに限らず大きな選手権試合はだいたいこのような決まりになっていて、競技の公平性を高めています。

対して、これまで相模湾で行われてきた関東選手権やミドルボート選手権などは、それぞれホームポートから出艇しレース海面で合流するというスタイルで、フィニッシュした後はそれぞれホームポートへ帰ります。
それが、こうして参加全艇をすべて一ヶ所に集めて係留するというのは、いつもと違う大舞台を演出する大きな要素でもあるのです。なんかもう、ワクワク感、ありますよね。
あのワクワク感こそ、ジャパンカップの魅力の一つなのかもしれません。

それが今回。台風被害によってシーボニアの泊地は当面使用出来る状態ではないということですから、残念至極。マリーナ職員の方々も、万全の台風対策をしてこられたのに、自然の力は恐ろしいものです。

とはいえ、エントリー艇の多く、特に関東の艇はすでに準備万端。鼻息荒くゲート入りした競走馬のような状態ですから、このままゲートが開かないというのもどうしたものか?
それぞれのホームポートから出艇すれば、レース自体は可能なはず。「せめて2日間くらい、出られる艇だけでも集めてインショアレースやりませんか?」という話も出てきているようです。もちろん、ジャパンカップとしてではなく。

まだ具体的な方向には進んでいないようですが、エントリー艇の鼻息の荒さしだいでは、何か面白いニュースをお伝えできるかもしれません。 が、
とりあえず、ワタシのJC観戦記はこれにて終了いたします。


プレビュー ジャパンカップ2009  2009/9/30

いよいよ、10/24からジャパンカップです。
さて、どんな展開になるのか? ちょっと想像してみましょう。

スタートした艇団は、前後左右に大きく散らばります。
左右に散らばるのは各艇の戦略や戦術によるもの。前後に散らばるのは、まずは主に艇の大きさ(絶対スピード)によります。

各艇が持つ絶対スピードの差をハンディキャップで修正するわけですが、それはいったいどのくらいなのか? 今の時点(9/25発表)で出ているエントリーリストから、ざっと計算してみましょう。

まずは、<SLED>が1時間走る間にどのくらい差が付くのか、見てみます。TCCは各艇に与えられたハンディキャップ値。時間差は分で表しました。

  艇名 艇種 TCC 時間差(分)
A01 SLED TP52 B&C 1.376 -----
A02 ESMERALDA SWAN NY42 1.189 9.44
A03 TURTLE FARR ILC40 1.189 9.44
A04 ESPRIT SWAN42 1.189 9.49
A05 MYSTIC-X FARR40 1.187 9.55
A06 ADONIS JN40(S40) 1.172 10.44
A07 PAPILLON GS42R 1.141 12.36
A08 MAUPITI COOKSON12M 1.133 12.87
A09 KARASU KING40 1.127 13.26
A10 SAKURA 1D35 1.124 13.45
A11 VITTORIA BC37CR 1.101 14.99
A12 EBB TIDE BC37CR 1.098 15.19
A13 KOFU FIRST40 1.094 15.47
A14 CONSTELLATION N/M39    
         
B01 SUMMER GIRL FIRST40.7 1.067 17.38
B02 GAIA SYDNY36CR 1.066 17.45

<スレッド>が60分でフィニッシュすると、修正時間は、
60×1.376=82.56分。
<エスメラルダ>が所要時間69.44分でフィニッシュすれば、修正時間は、
69.44×1.189=82.56分
と同じになる。
これより早くフィニッシュすれば<エスメ>の勝ち。遅ければ<スレッド>の勝ち、という意味です。

ちょっと<SLED>だけ飛び抜けて大きいので、次に大きい<エスメラルダ>を基準として計算すると、

  艇名 艇種 TCC 時間差(分)
A01 SLED TP52 B&C 1.376 -8.15
A02 ESMERALDA SWAN NY42 1.189 ----
A03 TURTLE FARR ILC40 1.189 0.00
A04 ESPRIT SWAN42 1.189 0.05
A05 MYSTIC-X FARR40 1.187 0.10
A06 ADONIS JN40(S40) 1.172 0.87
A07 PAPILLON GS42R 1.141 2.52
A08 MAUPITI COOKSON12M 1.133 2.97
A09 KARASU KING40 1.127 3.30
A10 SAKURA 1D35 1.124 3.47
A11 VITTORIA BC37CR 1.101 4.80
A12 EBB TIDE BC37CR 1.098 4.97
A13 KOFU FIRST40 1.094 5.21
A14 CONSTELLATION N/M39    
         
B01 SUMMER GIRL FIRST40.7 1.067 6.86
B02 GAIA SYDNY36CR 1.066 6.92

こんな感じ。
あるいは、<カラス>を中心に計算すると、

  艇名 艇種 TCC 時間差(分)
A01 SLED TP52 B&C 1.376 -10.86
A02 ESMERALDA SWAN NY42 1.189 -3.13
A03 TURTLE FARR ILC40 1.189 -3.13
A04 ESPRIT SWAN42 1.189 -3.08
A05 MYSTIC-X FARR40 1.187 -3.03
A06 ADONIS JN40(S40) 1.172 -2.30
A07 PAPILLON GS42R 1.141 -0.74
A08 MAUPITI COOKSON12M 1.133 -0.32
A09 KARASU KING40 1.127 -------
A10 SAKURA 1D35 1.124 0.16
A11 VITTORIA BC37CR 1.101 1.42
A12 EBB TIDE BC37CR 1.098 1.58
A13 KOFU FIRST40 1.094 1.81
A14 CONSTELLATION N/M39    
         
B01 SUMMER GIRL FIRST40.7 1.067 3.37
B02 GAIA SYDNY36CR 1.066 3.43

こうなります。
<カラス>が60分ちょうどでフィニッシュした場合、という意味ですから、上の表に比べてそれだけ短時間にレースが終わったという意味にもなり、各艇間の差はより短くなっています。
このように、各艇間のハンディキャップを時間差として捉えておくと、走る方も、見る方もより楽しめるかと思います。

この表を見ても、AクラスとBクラスのクラス分けの境界は悪くないと思うのですが、なによりBクラスのエントリーがわずか2艇。このままで、Bクラスのエントリーが少ないために今のAクラスが2つに割れてしまったりしたら、あまりにももったいない感じがします。
<ADONIS>と<PAPILLON >の間にちょっとギャップがあり、<SAKURA>と<VITTORIA>の間にもギャップはあるのですが……。

Bクラスに該当する艇は相模湾だけでもかなりあるはずなので、せめてあと5艇くらいBクラスのエントリーが増えれば、良いあんばいに治まりそうなんですが。

レイトエントリーは10月10日まで受け付けています。


インショアレースの第一日目(10月29日)から観戦記も始まります。