2006年初島卯月レース レースレポート（その１）
１１２２トレッキー おっ〜 なんてこった！
ジブセールが流れ出しているではないか。４月１５日の初島卯月レースはトラブルで始まった。
当日は，朝から風が強かった。ウサギどころか羊かシロクマが海上一面飛び跳ねている。クルージングなら間違いなく日和待ちで，朝からビールといったところだろうか？
マリーナからの外架前，ファラーにヘッドセールをセットしようとしたが船の向きが悪く強風でままならなかった。あきらめてセールはライフラインに縛り付けておいた。トレッキーチームは，昨年から各レースに積極的に参加している。突然レースに目覚めたわけではなく，これまでレースに参加したくても参加できなかった事情がある。
ある日，オーナーは，かつて名艇と呼ばれていた古い船を買ってきた。海外のレースでも活躍した船だ。本人からすれば，青年だった時代の夢の回顧だろうが２６年落ちの“ＧＴＲ”は簡単にはレーサーとして蘇ってはくれなかった。
数年間，トレッキーのマストは船体の傍らに横たわっていたのだ。強風で滅入って半分は中止気分だったが，レース委員会から確認の電話がかかってきた。最後に“いってらっしゃい”の言葉だった。これで覚悟を決めた。
今回の参加メンバーはオーナーを含め４名，見た目はともかく“若い“に分類されるクルーはいない。こんな気象条件の時こそ若い力がほしい！ しかしながら，今の若い衆はヨットなんぞには興味は無く金を貰って乗る物と思っているらしい。
スタート前，諸磯湾を出てまもなくライフラインに縛り付けていたはずのヘッドセールが流れ出していることに気がついた。５０才OVERのバウマンは直ぐに回収に向かった。同時にトレッキーは大きなうねりに突っ込み，一瞬，海中の人となったバウデッキの彼は全身濡れ鼠となり，この時点で戦意喪失である。オイルスキンは高くても良いものを買おう。デッキの上で右往左往しているうちに，スタートの合図があった。トレッキーは各艇のスタートを確認した後に本部艇横をパスする。決して意図したわけではない。
追ってのスタートだ。この強風ではさすがに参加各艇スピンが上がらない。トレッキーは初島への一直線コースを引いた。
船体の重いトレッキーは強風下のレースでその真価を発揮する。と思っていた。
初島までの追ってのコースでは，大きく差を広げられることはなく常に参加各艇が視界内，それも手が届くようなところにあった。いつものトレッキーとは違うぞ。レーティングから見ても，上位を狙える位置である。初島回航までアッと言う間の約３時間であった。楽観的な希望は初島回航とともに消え失せた。真登りとなった帰りのコースでは大きなうねりが壁となり，半分近く巻き取ったファーラージブの形状はエアフォイルにほど遠く，風の息とともに大きな音をたててシバーする。格闘状態のデッキ上ではタック毎にクルーがのたうち回る。めがねは曇って視界を閉ざし，シートを引く手はふやけて皮が剥ける。頭から浴びたスプレーは全身を冷やし，堪えようのないの寒さと震えが襲う。傍らには船酔いで嗚咽するクルーがいる。
“なにが楽しいのか？２度とレースには参加しないぞ！”心のなかで叫ぶ。
手の届くところに居たはずの参加各艇はいつの間にか視界から消え去っていた。初島から格闘すること約７時間，日は既に落ち，小網代浮標の灯火を確認することができた。赤みをおびた軟らかで優しい光だ。浮標を右にみて回航，最終であるトレッキーの到着を待っていた本部艇からのゴールのフォーンが聞こえた。
緊張から解き放たれ，例えようのない充実感が全身に充たされる。
辛かったことを全て忘れることができる至福の瞬間だ。
“またレースに出ようかな？”と悪魔がささやく。トレッキーは本年度のＫＳＣ事前エントリー（４レース）も済んでおり，その他のレースについても積極的に参加するつもりだ。今年はとりあえず参加回数部門で上位を狙う予定だが，オーナーは密かにパリパリの新品セールを制作すべく資金調達に奔走している。
トレッキーは船の仕上がりの点ではまだ発展途上で，やらなければならない整備やチューニングは山ほどある。しかしながら，まもなく微風でも強風でも滑るように走るトレッキーを確認することができるだろう？
トレッキーが目指すところは，小笠原・沖縄等の長距離外洋レースにあり，その開催を期待すると共にこれらレースのために常時航行区域（近海）を取得していることを申し添えよう。（あまり意味はないですけど）
各艇，油断しているとトレッキーのスタンを舐めながらのレースとなりますよ。最後に，初島卯月レース実行委員会の皆様の円滑な運営と最終ゴールのトレッキーを辛抱強く待っていただいたことに感謝申し上げます。
※ 正確には“１１２２トレッキー”と言います。
クリックすると大きくなります。
