J-Sailing

1月の江ノ島

寒い毎日が続きます。テレビの気象情報は「真冬の厳しさは峠を越えたようです」と知らせていますが、 朝ヨットハーバーに行って、オーニングの上に溜まった水が凍っているのを見るといくら晴天とはいえ、 気持ちが寒くなってしまいがちです。冬場の江ノ島は朝のうち北風が強めに吹いていて、昼頃になくなり、 東から南へ回りながら弱いまま夕方になると北へ戻るというパターンか、風のない暖かい朝にうねりだけがやたら大きく、 沖合いが透き通るように鮮明な空気になると白波とともに西風が入ってくるパターンが多いです。 今年の正月は西風のパターンで、元旦から連日で強風ばかりになりました。

1月2日から江ノ島ではジュニアクラブのメンバーが海へ出ましたが、2日の午後には瞬間最大風速が 24.5メートルを記録するような中、オプティミストのAチームの数艇が東浜の湾内で練習を続けていました。 この風景、初めて見た方はぎょっとすると思います。きっと指導している大人達が無理やり乗せているのだと考えて、 以前の体育会系のしごきだと考えるかもしれません。子供達が可愛そうだとか、そんなにまでして勝ちたいかと。

現場にいると中身は随分と異なるものです。まず、レスキューボートに乗る先生や手伝ってくれる父兄のメンバーは 自分達のボートが波であかが入り、沈みそうになってハーバーへ逃げ込んできたり、セールがさけたり、 スプリットポールが折れたり、トラブルがあったボートをレスキューするのに頭からずぶぬれになって、 ひとつ救助したら他にもトラブルがある艇がでるかもしれないからまた練習海面に戻ってと・・・ こういう仕事は本当に寒いのです。レスキューが何度も続くと、早くあがりたいと思うこともあります。

子供達は元旦におじいちゃんやおばあちゃんを訪問してお年玉を集めてきますが、2日からは学校が 始まるまで毎日ヨットに乗れるので、楽しくて仕方がないといったところでしょうか。たぶん、 楽しいのはヨットに乗る時間だけでなく、先生やコーチにおこられる時間があったとしても、 普段からいっしょにヨットの練習をしている友達と遊ぶ生活が楽しいのだと思います。 子供達の中には子供達なりの哲学があり、小学校から高校3年生まで成長をともにしていくことが ジュニアクラブの特徴だと思います。

何年か前にヨーロッパ選手権に出た「さる」とあだ名のついた少年がみんなの予想を裏切って 6位に入った時のことでした。大人達は彼が何故上位に入れたのかうんちくを述べているのですが、 子供達は、「今度からおさる様とお呼びしないといけないかな。」といい、 「おさる様、お帰りなさいませ。」といいながら時代劇みたいな地面に座っておじぎの練習をしているから笑えます。 また、初めての海外遠征で緊張して実力をだせずに固まっていた「キューピー」と あだ名のついた少女は大人達が彼女の緊張するくせを直すためにあの手この手をつくしていく中、 本当のコーチは子供自信なのかもしれないと思わせることがありました。いつもいっしょに 遠征する子供達はキューピーが緊張することを知っていますから、レース当日の朝、 「キューピー、今日は心臓バクバク?」「そうでもないよ。」と、率直に声をかけてしまうのです。 大人のレースでは緊張している人がいると腫れ物にでもさわるかのように避けていく場合が殆どですから、 信頼関係というよりは子供なりの仲間意識というのはうらやましい限りです。

そのキューピーは1月2日の午後3時、太陽が夕日になりかけた頃に2枚目のセールを破いて 陸に戻ってきました。あと30分もすれば練習は終わるのだし、もう今日は終わりだろうと思っていた 矢先に彼女は他の人のセールをかりて、スロープまで走っていくと、マストをたててもう一度海へ 出ていったのです。凄いパワーを感じました。心臓バクバクで下を向いてひざをかかえていた少女が 全日本チャンピオン目指して日々成長していく姿から、考えさせられることがいくつもありました。

オプティミストの時にもっている情熱が高校に入ると急に目標がなくなり、どんどんさめてしまう 環境をまず何とかしないといけないというのは多くの人が気がついている問題です。だから組織改革が 必要なのかというと、そんなことを待っていられない高校生達もいるわけです。当面の目標というのを 作れるように応援してあげられたらと思うのですが、そういった状態の高校生を支援するためのお金は ありませんから、自分で稼いでくるお年玉や家族の応援にたよるしかありません。今年は学校にヨット部 のない高校生達がヨット部にいる高校生から羨ましがられるクラブ活動ができるよう新しいアイデアを考えてみようと思います。

1月中旬、江ノ島にイタリアのマルチェロさんがオプティミストの講習会でやってきました。 指導する大人達が子供よりもハイになっている姿をみていて、何年か前に江ノ島で アルゼンチンからコーチをよんだ時のことを思い出しました。お母さん達が手作りのパーティーを 企画してくれた時に、子供達がわからないなりの英語でとり囲んだのはコーチではなく、 いっしょに来たセイラーであったことを。そして、効果があったのは内容ではなく、練習が楽しくて、 単純なあかくみの練習でも一生懸命やるようになったこと。8回に及ぶ講習が全国各地で 行われることは子供達の意識改革をする上で効果がありますから、この機会を大人の暴走でつぶしてはなりません。 暴走しているおとうさん達は「だって、おとうさんはヨットレースで勝ったことあるの?」と、 子供から率直な言葉を受ける日がくるかもしれませんよ。